FujiSankei Business i. 2006年6月14日付

政府が知財推進計画06発表 各方面の反応


 ■活用イノべーションに期待

 小泉首相が本部長を務める政府の知的財産戦略本部が06年度の知的財産推
進計画を発表した。計画は02年の知財立国宣言以降3度目。関係者の声を拾っ
た。

 ≪院生の特許料減免を≫

 計画では、06年度から08年度までの3年間を「世界最先端の知財立国を
目指す」ための第2期と位置づけ、「知財立国の実効を上げる」「知財を活用
した国際競争力強化」「新たな課題に対応した制度整備」を推し進める。

 「特許庁の審査処理迅速化やニセモノ対策、人材育成など、従来の課題と同
じテーマが多く、短期間の知財立国推進が難しいことを伺わせる」(企業知財
部)、「課題はかなり出尽くした」(知財関係団体)なかで注目をされるのは
「イノベーションの促進」だ。

 「特許と論文の検索システムの統合」とは「知財活動におけるデータ活用の
高度化を意味している」(知財戦略コンサルタント)という。例えば現在、大
学や企業の研究現場では学術論文データベースが使われているが、特許出願す
る際は大学の知財本部や知財部が特許データベースを検索して過去に類似特許
がないかを調査する。これらを一括できるならば、研究現場では特許化可能性
の高いものを選んで題材にすればよく、無駄な研究投資や出願を防げる。

 「今は省庁の壁があって審査官は直接得られない情報があるが、審査の質向
上や処理迅速化のためにも円滑な情報収集システムが必要」(特許庁関係者)。
産学官の知財情報システムはイノベーションする必要がありそうだ。

 「ポスドクや大学院生等の特許料等の減免」は「彼らの発明への意識付けや
地位向上のためにもぜひ推進すべき」という声が各方面から出ている。理由は、
院生レベルになると実質的には教授並みの研究活動をして発明に至る例が散見
されるからだ。現在では大半の大学で発明規程が整備されているが、過去には
発明者名を指導教授にして手柄を譲らせたり、出願人を大学名にしたり、また
発明の対価である報償金の支払いなどでもめることがあった。

 大学関連では「大学知的財産本部とTLOの一本化や連携強化」も示されて
いるが、「統合するのか、どちらに統合するのかが、はっきりしていない」な
どの意見が各方面で聞かれた。

 ≪難しい侵害相談≫

 「中小企業と地域への支援」は、これまでの計画でも何度も指摘されている。
今回、「中小企業・ベンチャー企業の知財の保護」の中で知財権侵害から中小
企業を守るための「知財駆け込み寺」を商工会議所などへ設置することが盛り
込まれているが、実現を疑問視する声が聞かれた。

 「知財侵害訴訟や対策はプロでも難しい分野であり、知財の専門家でもない
商工会議所では無理」「非弁法に抵触するのがオチ」という。しかしながら、
海外企業による模倣品被害、地域ブランド商標での地域内トラブルの発生に対
して、知財の基本的な知識さえ持たない中小企業や地域住民の相談窓口の設置
ニーズがあるのも事実であり、より実効性ある対応策が求められている。

 「文化創造国家づくり」の中のコンテンツ大国も従来の重要課題の一つだ。
しかしながらコンテンツ関係者は、「もう少し現場を知ってほしい」という。
例えばこの項目の中に、コンテンツのクリエーターが適正なリターンを得られ
るように契約慣行の改善が掲げられている点について「契約とは当事者の力関
係で成立する。例えばミュージシャンが契約にうるさくなった時点で、仕事は
来なくなるだけのことだ」(音楽関係者)。

 コンテンツについては「サラリーマンでないプロのプロデューサーやコンテ
ンツ専門の弁護士をもっと育成して、業界内の仕切り役をさせるべきだ。そう
すれば産学官プラス金融機関が連携して一つのコンテンツによって、日本に膨
大な収益をもたらす」(知財関連団体)との指摘があった。

 このほか新しいテーマに「農林水産分野における知財の保護・強化」がある。
農林水産省の知財戦略本部設置を受けてのものだ。「農業知財や農業知財の情
報を管理する技術やツールの開発や研究も必要とされつつある」(知財システ
ム開発企業)、「農水知財の活用の研究は今始まったばかりだが、大きなテー
マだ」(知財関係団体)と注目度は高かった。

 (知財情報&戦略システム 中岡浩)

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 ■知的財産推進計画2006の主なテーマ(カッコ内は具体策)

 〇ニセモノ対策強化(模倣品・海賊版拡散防止条約の早期実現、個人輸入等
の取り締まり強化)

 〇イノベーションの促進(特許と論文の検索システムの統合、ポスドクや大
学院生等の特許料等の減免)

 〇出願構造改革・世界特許の実現(海外出願の促進、日米欧の連携による権
利取得の早期化)

 〇中小企業と地域への支援(中小企業・ベンチャー企業の知財の保護、地域
の知財戦略の支援)

 〇文化創造国家づくり(世界トップクラスのコンテンツ大国の実現、日本ブ
ランドの振興)

 〇知財人材の育成(知的財産人材育成総合戦略の実行、国際的知財専門人材
の育成、国民への知財啓発強化)