『週刊ダイヤモンド』2006年6月17日号

新薬審査が機能不全の恐れ
公務員削減の思わぬ副作用


 「これで総合機構の新薬審査は完全に機能不全となる」。ある大手製薬会社
社長はため息をつく。

 総合機構とは、新薬や医療機器の承認審査を担当する独立行政法人のことで、
その正式名称を医薬品医療機器総合機構という。二〇〇四年四月、審査業務の
効率化を目的に、三つの業務機関が統合し誕生したが、審査官不足で新薬審査
が遅延。通常審査に要する期間は米国に比べて九ヵ月ほど長く、設立前から申
請されていた新薬一三九品目のうち、いまだ五四品目が審査中(〇五年度末時
点)だ。

 もっとも、最近では業務改善も進み、優先品目審査のスピードに限っては米
国に追いついてきた。積極的な採用活動の甲斐もあって、人員も〇四年の二五
六人から〇六年四月には三三九人(内定者二〇人を含む)にまで増えた。〇八
年度末までの中期計画で掲げた目標、三四六人体制も二年前倒しで実現しそう
だ。

 しかし、冒頭のコメントにもあるように、大きな問題が立ちはだかる。それ
は昨今の政府による公務員削減策にほかならない。じつは独立行政法人もその
削減の対象。今年度以降五年間は五%以上の人件費削減が義務づけられる。
「三四六人体制を達成しても、維持できるかどうかは微妙」(総合機構)と黄
色信号が点灯している状況である。

 単純に給与を引き下げる策も困難だろう。というのも、そもそも総合機構が
人手不足に陥ったのは製薬会社や病院に比べ、安い賃金が原因だったからだ。

 現在、「海外では入手できるが、日本では服用できない医薬品」が社会問題
化。〇四年の世界のベストセラー医薬品上位一〇〇品目のうち、日本ではいま
だ三一品目が未承認。最近二年間に発売された医薬品の一人当たりの消費量も
米国一〇〇に対し、日本はわずか一。発売後一〇年たっている医薬品も日本は
米国の過半数しかない。患者にとっては明らかに不平等だ。製薬会社にとって
も「大型新薬の場合、一年の承認遅れは十数億円以上の機会損失を招く」(大
手製薬会社幹部)という。

 米食品医薬品局(FDA)の審査関係者は約二二〇〇人と総合機構(約二〇〇人)
の一〇倍強だ。「総合機構に支払う審査料(最高額で約一六〇〇万円)、相談
料(同約三〇〇万円)が二〜三倍になってもいいから、審査官を増やしてほし
い」(青木初夫・日本製薬工業協会会長、アステラス製薬会長)という声には
実感がこもる。

本誌・山本猛嗣