『朝日新聞』2006年6月12日付

研究者昇進「ガラス張り」に 9大学


 東京工業大や京都大など9大学は今年度、研究者の昇進をより実力本位に改
めるため、一部に新しい昇進審査制度「テニュアトラック」を導入する。選ば
れた若手研究者が独立して研究を続け、一定期間の後に、研究業績に基づく昇
進審査を受ける。合格すれば教授や准教授としての終身在職権(テニュア)が
与えられる仕組みだ。文部科学省が各大学に3億円ずつを5年間助成する。

 導入するのは、ほかに、東北、東京医科歯科、東京農工、名古屋、大阪、北
陸先端科学技術大学院、九州の各大学。

 従来の人事制度では、研究室に所属した研究者の昇進は、研究室の教授の意
向に大きく左右された。研究室に所属せず、任期付きポストで研究する人も増
えてきたが、任期終了時点で希望する空きポストがなければ、再就職先を自分
で探さなければならない問題が指摘されていた。

 テニュアトラックは、一定の評価が得られれば、確実に昇進できるのが特徴。
人事の透明性を高め、研究意欲を支えると期待されている。

 標準モデルでは、博士号を取得した30歳前後の若手研究者を対象に大学が
10〜20人を選抜し、1000万円ほどの資金を支給して自分の研究室と専
任スタッフを持たせる。以後、年1000万円ほどの研究費を5年間支給した
うえで、昇進審査をする。審査に際しては大学や学部が学外委員も含めた審査
委員会を設けるなどして、透明性を確保する。

 今年度の助成対象は計約100人分で、教授などへの昇進倍率は大学により
違い1〜4倍。年1万5000人いる博士号取得者のほんの一部だが、文科省
は来年度以降、順次拡大する方針だ。テニュアを得られなかった研究者は、自
ら研究ポストを探すことになる。

 テニュアトラックは米国ではほとんどの大学や研究機関で導入されている。
終了時のテニュア獲得倍率は2〜10倍と厳しいが、審査基準は明確とされる。
総合科学技術会議は、第3期科学技術基本計画の中で、この制度を国内で定着
させる方針を示した。