『朝日新聞』2006年6月12日付

大学も団塊狙う シニア入試、新学部 


 少子化で学生の確保に苦しむ全国の大学が、近く定年を迎える団塊世代の獲
得に動いている。シニア限定の大学院や、中高年をねらった学部を計画する大
学もある。この世代向けの公開講座を開く大学は多いが、一般の学生と同じよ
うに修士号などの資格を与えるのが最大の特徴だ。私大の団体も受け入れをめ
ざして研究を始めるなど、若者に加えて新たな層からの学生の獲得をめざす。

 東京経済大(東京都国分寺市)は14日、「シニア大学院」(10月開設)
の願書受け付けを始める。大学卒業から30年過ぎていることが受験資格で、
団塊世代がターゲットだ。修了には通常2年で36単位が必要だが、ゆっくり
研究できるように4年まで延長できる。7月の入試では学力テストはなく、口
述試験やリポート提出を課す。

 同大学は02年から、正規とは別枠で大学院に「シニア研究生」を受け入れ
ている。多くの大学が設けるカルチャーセンター的な公開講座と違い、授業は
真剣そのもの。若い学生と机を並べ、対等の立場で議論に参加する。しかし、
修士号は取れず期間も半年か1年。「修士を取りたい」との年配研究生らの声
もあり、大学院開設が決まったという。まずは経済学研究科の募集を始めた。

 シニア研究生で、来年にはシニア大学院入学も考えている東京都八王子市の
沼田元明さん(56)は、現役の日本ヒューレット・パッカード労務担当部長。
「これまでの仕事の経験をまとめたい」と、企業内コミュニケーションなどを
学ぶ。

 「入学前は通勤途中の勉強で足りると思っていたが、甘かった」。当初は授
業での議論についていけず、教授には論文の内容以前の体裁から勉強するよう
に注意された。授業は金曜の夜と土曜だが、仕事の合間にも通学し図書館など
で勉強に励む。「一つ勉強すると、『もっと知りたい』と意欲がわいてくる。
自分にそんな面があったことに気づくのも楽しい」

 兵庫県三木市の関西国際大では今春、60歳以上限定のシニア特別選考を始
め、10人が入学した。広島大も学部、大学院に出願資格を50歳以上、60
歳以上などと限定する枠を設けている。

 少子化で大学・短大の志願者数と定員が一致する「全入時代」が、07年に
到来するとされる。多くの大学は学生集めに苦労しており、昨年6月には定員
割れが続いて破綻(はたん)する私大も出た。

 07年からの5年で18歳になるのが600万人。一方、60歳は1100
万人もいる。05年度入試では、475大学1017学部が社会人特別選抜を
実施した。文部科学省によると、05年5月1日現在で、50歳以上の大学院
生は1799人、61歳以上も359人いた。

 東京の有力私大の中には、団塊世代らをねらった新しい学部を開設する動き
もある。国立大の大学院と連携して、趣味として多くの中高年が取り組むテー
マに関連した授業を展開するという。

 日本私立大学協会は04年、「シニア世代の受け入れ推進研究会」を設置し
た。昨年11月にまとめた中間報告では、「経営の安定化に貢献する」などと
効果を強調。受け入れには、入試に学力試験がないシニア枠を設けるなどの工
夫が必要だと提言する。同協会の担当者は「これからの大学にとって、シニア
をどう受け入れるかは大きな課題。今後も研究を続けていく」と話している。