『毎日新聞』2006年6月10日付

大学淘汰:/6止 空洞化 高等教育に群がる企業


 ■売り出せ「個性」・集めよ「学生」

 卒業生の転職を一生涯お手伝いします−−。そんな大学が現れた。

 関西大(大阪府吹田市)は人材派遣大手パソナのグループ会社と業務提携し、
昨年11月「卒業生就業支援室」を設けた。同大学OBの南部靖之・パソナ社
長が持ちかけた。

 支援室は転職希望の卒業生の相談に乗り、グループ会社を紹介する。会社は
関大専用の相談窓口で転職の助言やあっせんを行う。卒業生の年齢は不問。こ
れまでに20〜40代の約800人が訪れ、約50人が再就職したという。パ
ソナの山本絹子専務は「新しいビジネスモデルで、他大学にも広げていきたい」
と話す。

 就職が決まらないままこの春関大を卒業し、その足で相談窓口に向かった就
職浪人生もいた。

 関西学院大(兵庫県西宮市)も別の人材派遣会社と組んで今春「就職支援プ
ロジェクト」を始めた。転職先を金融業界に絞り、人材派遣会社がインターネッ
トを利用した学習システムで転職希望者に必要な知識を与える。「よそは4年
間育て、会社に送り出して終わりだが、うちは"一生涯保障"。受験生や父母に
安心感を与え、圧倒的な差別化が図れる」と、寺地孝之・商学部教授は意気込
む。

 大学に群がるのは人材派遣会社だけではない。

 東日本の中堅教材会社は昨年、事前に"問題学生"を把握する「自己発見テス
ト」を大学に売り出した。物事に取り組む姿勢などを調べるテストを新入生に
受けさせ、学業が振るわず、退学しかねない無気力学生を見つけ出すという。

 学生本人が手にする分析結果には「興味を広げる姿勢が持ち味」などと書か
れているが、教員向けの分析結果は、個々の学生を▽安全▽準安全▽要注意−
−のいずれかに位置づける。要注意には問題学生の80%が入るという。「退
学は財政的に痛手。事前に分かれば予防的な指導ができる」(教材会社幹部)

 大学が授業を丸ごと外部委託する事例も目立つ。

 大阪経済大(大阪市東淀川区)は、商品企画を学生に体験させる「企画力開
発講座」を、教育プロデュース業「デジタル・トウキョー」(東京都千代田区)
に任せている。昨年開学した公立の首都大学東京(東京都八王子市)は、週2
コマの1年生必修「実践英語」の1コマ分を、英会話「ベルリッツ・ジャパン」
(東京都港区)に委託。学内には「"丸投げ"では責任が持てない」との声もあ
る。

 規制緩和の震源地、規制改革・民間開放推進会議の宮内義彦議長は今月6日、
講演で次のように語った。「大学教育にミスマッチがある。社会のニーズに応
えていない」

 その声に背中を押されるかのように、大学は生き残りをかけて多様なニーズ
に応えようともがき、企業との結びつきを深めている。裏側では、長い間に培っ
た高等教育の力を自ら手放し、資格取得を目指す専門学校や初等中等学校にま
で歩み寄る姿があった。

 大学が、限りなく空洞化している。=おわり

     ◇

 この連載は大阪社会部・内田幸一、東京社会部・高山純二、井上英介が担当
しました。
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