『毎日新聞』2006年6月7日付

大学淘汰:/3 少子化と増校 「格付け」に追い込まれ


 ■売り出せ「個性」・集めよ「学生」

 文部科学省が昨年春作った小冊子が、大学関係者の恐怖の的となっている。
私大の経営破綻(はたん)への対策を初めてまとめたもので、すべての大学法
人に配った。表紙が青いため「ブルー・ブック」と呼ばれる。「読めば気分も
ブルーになる」(東京都内の大学関係者)

 「経営悪化の兆候がみられる大学には改善計画を提出させる」と定め、改善
が難しければ「破産法に基づく清算や自主解散などの指導・助言もあり得る」。
脅し文句は続く。「再建の見込みのない学校法人への国費投入は国民の理解を
得られない」「事態が逼迫(ひっぱく)していれば、特に早期の決断を強く促
すこととする」

 経営が振るわず、現時点で「改善計画の提出」というイエローカードを突き
つけられた大学法人は全国で22に上っている。

 大学は文科省のみならず、受験業界からの厳しい評価にもさらされている。

 河合塾は00年度、入試難易度の予想に、難易度が定まらない「BFランク」
を導入した。難易度は学部学科の一般入試ごとに合格者と不合格者の偏差値分
布で決まる。定員割れで不合格が出ない場合などは、難易度は決めようがない。
BFはボーダーフリー(合否ラインなし)の略で、今春の学部学科入試では1
2・3%が該当した。

 学部学科が一つでもBFとなれば「誰でも入れる」「人気がない」と思われ
かねない−−大学関係者は動揺した。

 「何に基づくランク付けなのか」。導入直後、北関東の私立大入試広報部長
は河合塾に電話で問い合わせた。「出版物への広告をやめる」「営業マンはも
う来るな」と抗議する大学もあった。

 大学側の拒否反応について、民間コンサルタント「高等教育総合研究所」
(東京都千代田区)の亀井信明社長は言う。「予備校による格付けへの感情的
反発に加え、マーケット(受験生市場)の冷徹な評価への衝撃の方が大きかっ
たのだろう」

 一方で、不可解な現象が起きている。少子化に逆行して、大学と短大の合計
数が増え続けているのだ。

 短期大学は05年度383で10年前より108減り、大半は4年制へ移行
した。大学は05年度542で132校の増。移行分を上回り、新しい大学が
次々生まれている。多くは医療・福祉・看護系で、専門学校との垣根がなくな
りつつある。

 文科省は少子化をにらみ、70年代半ばから大学や学部の新増設を抑制して
きた。ところが、総合規制改革会議(現在は規制改革・民間開放推進会議、議
長=宮内義彦オリックス会長)が01年「参入規制は問題だ」と抑制方針撤廃
を提言。文科省は間もなく、要件を満たせばどんどん許可するようになった。
ちなみに宮内氏は関西学院大(兵庫県西宮市)の理事を務める。

 受験生市場から厳しい評価を受け、定員割れで経営難に直面する大学が出る
一方、規制緩和で「株式会社立大学」も誕生した。大学の増殖が止まらず、互
いに首を絞め合い、経営やブランド力などが弱い学校が退場する。大学は厳し
い生き残り競争にさらされている。【教育取材班】=つづく

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