心にたがをはめる法律はいらない―教育基本法改悪に、反対します―


 敗戦後間もない一九四六年三月、日本児童文学者協会は生まれ、以来六十年、
「民主主義的な児童文学の創造と普及」を綱領の第一に掲げ活動してきました。
わたしたち日本児童文学者協会は、アジア・太平洋戦争への真摯な反省と、二
度と同じ轍を踏まぬ、踏ませぬという決意から生まれ、その決意の下歩んでき
たのです。

 「民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しよう
と」決意した、「日本国憲法」の「理想の実現」のために制定された「教育基
本法」。臣民の心構えとして徳目を列挙した「教育勅語」と真っ向から対立し、
「個人の尊厳を重んじ」る「教育基本法」。これを変えることが、憲法を変え、
日本を戦争ができる国にしようというもくろみの一段階であることは明らかで、
わたしたちは二〇〇三年、二〇〇五年と二度にわたって教育基本法改悪に反対
する声明を出してきました。

 そしてこの春、自民党・公明党の「与党教育基本法改正に関する協議会」が
まとめた最終報告は、閣議決定を経て四月二八日、ついに国会に提出されまし
た。それは、現行教育基本法の文言を残しながらも、巧みに骨抜きにするばか
りか、教育の条件整備法として国を縛るものから、子ども・教師・親を縛る法
へと重心を移しています。

 たとえば、現行教育基本法前文の「真理と平和を希求する人間の育成」が
「真理と正義を希求し」と、「平和」が「正義」に変えられています。「正義」
の名の下に、アメリカ・ブッシュ政権が起こしたアフガン攻撃、イラク攻撃の
あとで、このたった一言の変更がどれほど大きな転換かということを、わたし
たちは知っています。また、第二条は「教育の方針」ではなく「教育の目標」
とされ、そのなかでは、「伝統と文化」「他国を尊重」などといったあたりさ
わりのない表現を装って、結局のところ「国」への「愛」を強要しています。
また、「教員は全体の奉仕者」という文言は削除され、「男女共学」の条文も
完全に消されています。

 現憲法、教育基本法下にある現在でさえ、東京都教育委員会を急先鋒に「日
の丸」「君が代」の学校現場への強制は激しさを増しています。「与党教育基
本法改正に関する協議会」最終報告がまとまったのと同じ四月一三日には、東
京都教育庁が、職員会議で意思決定に際して教職員による「挙手」や「採決」
を行ってはならないとする、常軌を逸した通知を出しました。このような状況
の下、時の権力が「改正教育基本法」のお墨付きを得たら、いったいどのよう
な学校、そして、社会になるでしょう。

 わたしたちは、日本国憲法と、その理想実現のための現教育基本法を強く支
持します。さまざまな可能性を秘めた子どもたちの心に国家が法でたがをはめ、
国家の名の下に殺し殺される道を開くような教育基本法の改悪には、断固反対
であることを、ここに改めて表明します。

2006年5月21日
(社)日本児童文学者協会 第43回定時総会