『内外教育』2006年5月30日付

《欠陥だらけの国立大学法人法》
住友生命顧問・糟谷正彦

 国立大学法人が誕生してから2年が経過した。この法律案審議の際、参院文
教科学委員会で23項目もの付帯決議がなされたように、かなり強引に成立さ
せた法律である。発足後2年間の流れを見ると、一部のちょうちん持ちのマス
コミの論説を除けば各種の欠陥を指摘するものがなお多い。

 例えば、行政法の大家である塩野宏東京大学名誉教授は、「昨今の制度改革
はその実現に急であって、改革の対象となる法領域における法理論の探求は、
今後の課題として残される場合がしばしば見られる。国立大学の法人化はその
典型例の一つであって、そもそも国立大学法人の性格論議自体手付かずのまま
である」(現代の高等教育第475号「国立大学法人の学長選考制度」)と指
摘する。

 学外からの意見を聴くための経営協議会が役に立っていない。東北のある大
学の経営協議会は、忙しい外部委員のために東京の丸ビルで年3回開かれると
いう。そのたびに地元から、学長はじめ役員、幹部職員の集団が上京する。そ
の旅費だけでも、大変な額に達する。キャンパスに足を踏み入れたこともない
人たちの高まいなご意見が、大学運営にどれだけ影響を与えるかは疑問である
(小田滋「30年ぶりの帰国で見た日本の国立大学」 日本学士院紀要59巻
2号より)。

 財務会計規定が問題である。教育研究のための人材の蓄積と施設・設備だけ
が財産であり、主として国からの運営費交付金と施設費補助金で賄われる消費
経済主体である国立大学法人に、企業会計原則を採用する利点がない。退職手
当引当金や減価償却引当金すらも計上しないのだから、何を時価評価する必要
があるのか。

 国立学校特別会計時代には不要だった、役員報酬、監査法人への報酬、各種
損害保険料、雇用保険の使用者分担金、振込手数料などの無駄な経費がどれだ
け増加したのか、それに見合った効果はどれほど見込まれるのかを公表すべき
である。