nikkeibp.jp 2006年6月2日付

総合科学技術会議、大学間で特許を相互利用できる制度を提案


 内閣傘下の総合科学技術会議は、大学の"非営利"研究において、各大学が持
つ特許を原則的に無料で相互利用できるようにする「研究ライセンス」指針案
を公表した。大学教員や研究者による、政府資金を基にした研究から生まれた
特許の実施権を、非営利の研究に限って互いに使えるようにする“研究互助会”
を作り、研究の自由度を高めようという考えである。

 5月23日に開催された第55回総合科学技術会議では、「大学等における政府資
金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関
する指針(案)」が提出された。同指針案は、日本の知的財産を増やすために
は、特許を創出する主役の1人である大学の自由な研究環境を保つことが不可欠
との考えから浮上した。

 大学教員・学生の研究は多様化しており、特許などの実施権を使うケースも
増えている。特許法の精神に照らし合わせれば、大学教員・学生といえども、
他者が持つ特許実施権を使う場合は、実施権ロイヤリティーを支払うのが本筋
である。しかし、大学の研究の本流である基礎研究では、どんな研究成果が飛
び出すか分からない段階で、他者の特許の実施権ライセンスの許諾を取って、
ロイヤリティーを支払うのは、かなり煩雑な作業となる。このため大学の研究
に限っては、政府資金による研究成果から産まれた特許の実施権を互いに無料
開放し合うことで、優れた研究成果を上げてもらい、優れた特許を多数排出し
てもらおうというもの。


研究者が大学を異動する際のトラブルを防止

 この指針が実現しないと、大学教員などが他大学に異動した際に、思いがけ
ない研究障壁が浮上する。2004年4月に国立大学が国立大学法人に移行した際に、
大学教員などが作り出す特許などの知的財産は、原則として大学所有(機関帰
属)に移行した。以前は原則として、教員などの個人に帰属していた。

 大学帰属に移行した結果、教員AがB大学で出願した特許は、B大学のものにな
る。仮に教員AがB大学からC大学に異動すると、自分の研究成果から生まれた特
許であっても、実施権許諾をB大学から取る必要が出てくる。たまたま異動時に
大学との間にしこりがあると、B大学が教員Aに当該特許の実施権の許諾を与え
ないで研究を差し止めたり、あるいは法外に巨額の実施権ロイヤリティーを要
求する場合も想定される。あるいは許諾に長時間をかけるという場合もあり得
る。この場合は、異動直後は継続して研究できなくなる。総合科学技術会議は
「研究ライセンス」制度によってこうした問題を解決し、大学間の人材流動を
活性化し、日本の研究水準を高める効果を期待している。

 「研究ライセンス」制度では、大学が保有する特許を基礎研究などに使う場
合、実施権ロイヤリティーは無償(実費は支払う)か、あるいは"合理的"な金
額とする。特許実施権の許諾を依頼する書類も簡潔な項目とし、迅速に許諾さ
れる仕組みも導入する。

 日本の大学教員・学生が作る研究コミュニティーでは、他の大学が持つ特許
の実施権を大学の基礎研究に対して円滑に互いに利用し合う研究環境を築き、
研究の自由度を担保する。大学と企業との共同研究では、非営利研究かどうか
を判断し、研究ライセンスを与えるかどうかを適正に判断する。

 各大学がこの研究アライアンス契約を互いに締結するかどうかは、大学の知
的財産の戦略立案担当者などの当事者の判断に委ねられることになりそうだ。
将来は、海外の大学とも同様の契約を締結する可能性も高いと考えられている。