『毎日新聞』佐賀版 2006年6月1日付

新教育の森:さが 教育基本法改正・識者インタビュー/3 /佐賀

 ◇格差助長につながる−−弁護士・東島浩幸さん(45)


 中央教育審議会などの議論を見ると、今回の改正の背景は二つある。一つは
いじめや学級崩壊、少年事件など、教育荒廃への国民の不安。二つ目は国際競
争の激化の中、社会や経済をけん引するエリート育成が必要という意見。では、
これらの課題が基本法の改正とどう関係があるのか。

 基本法が教育荒廃の原因かといえば、検証も分析もなされていない。教育荒
廃がないとは言わないが、改正すれば克服できる問題でもない。また、国際競
争力のためにエリートを育てないといけないというのは、国民ではなく、為政
者側が考えている理由。国際社会の中でどういうスタンスを取るかは国づくり
の骨格で、国民が選択するものだ。

 日本の教育は98年に国連子どもの権利委員会から、競争の激しい教育制度
の克服などを勧告され、04年にも同様の勧告を再び受けている。国際化を言
うのであれば、国際的な人権水準に照らして内容を検討することは不可欠なは
ず。だが、改正案の中で検討した形跡はなく、国際化に全く逆行している。

 基本法は教育に対して国がすべきこと、してはいけないことを大きな観点か
ら規定することが一番重要。国が細かく「こういう人になりましょう」と規定
するのは問題だ。法案にある「教育振興基本計画」も、数値目標の達成状況に
応じて予算や人事を配分する、褒美とペナルティーを通じて教育内容を統制す
る手段として使われるだろう。

 改正案にはエリート教育の観点があり、学校間などで数値目標の達成状況を
競えば、子供たちの競争という形になる。また、義務教育年数(9年)の削除
によって義務教育がどう変わるのかが見えない。憲法に準じた基本法から年数
を外し、より下の法律で年数をころころ変えられるというのは問題だ。

 現状でも国連子どもの権利委員会から過度な競争を指摘され、教育に費用を
かけられるかどうか、つまり保護者の経済力に競争が左右されている。今回の
改正が実現すれば、この傾向は強まり、さらに格差の助長、固定化につながる。
大多数の子供が早い段階で「非エリート」とされ、教育の機会均等は崩れてし
まうだろう。(つづく)

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 ◇弁護士・東島浩幸さん
 県弁護士会・子どもの権利委員会委員長、九州弁護士会連合会・子どもの権
利に関する連絡協議会委員。日弁連の子どもの権利委員会委員も04年度まで
約10年務め、教育問題に詳しい。県弁護士会は今月、改正反対の会長声明を
出した。