『西日本新聞』社説 2006年5月30日付

大幅延長の必要はない 国会会期


 国会は6月18日の会期末が迫り、会期延長問題が焦点になってきた。

 小泉純一郎首相は一貫して、会期延長には消極的だ。自民党執行部にも、小
幅な延長はあっても大幅延長は非現実的、との空気が強い。

 にもかかわらず、同党内には大幅延長を求める声が消えない。とりわけ、教
育基本法の改正に熱心な勢力にそうした声が強い。

 自民党内には、教育基本法改正案だけでなく、与党が単独で国会に提出した
ばかりの国民投票法案の処理にめどをつけたい、との思惑もあるようだ。

 自民党にとっては、いずれも長年の懸案だ。高い支持率を維持している小泉
首相の在任中に、一挙に処理してしまおうとの計算もうかがえる。

 だが、教育や憲法は国の将来にかかわる重いテーマだ。しかも政府、与党が
提出した法案には、国民の間に根強い異論がくすぶっている。会期延長して駆
け込み処理を図るような問題ではない。

 私たちは両法案について、急がずにじっくり論議を重ねるべきだと主張して
きた。両法案の成立を念頭においた会期延長には反対だ。

 小泉首相がいまだ高支持率を保っているといっても、4カ月後には退陣する
身だ。国民世論を二分しそうな微妙な問題は、じっくり議論を重ねるためにも、
次以降の政権に委ねるのが筋ではないだろうか。

 政府が今国会に提出した重要法案のうち、5年に及ぶ「小泉改革」の総仕上
げと位置付けられる行政改革推進法が既に成立した。国民の負担増を伴う医療
制度改革関連法も、成立が濃厚だ。

 それで政府・与党サイドに余裕と欲が出てきたのか、防衛庁を「省」に昇格
させる法案の今国会提出を模索する動きまで浮上している。

 この法案は、防衛施設庁の官製談合事件に対する国民の批判を受けて、お蔵
入りになっていたはずだ。それが息を吹き返しそうなのも、国会の会期延長論
に連動している。

 こんなどさくさ紛れの動きが急浮上するようでは、会期延長の必要性に関す
る疑問はさらに募る。

 国民の政治的関心が、「ポスト小泉」を決める9月の自民党総裁選に移りつ
つあることも指摘しておきたい。

 その総裁レースでは、小泉政治のどの部分を継承し、どの部分を改めるのか
が争点になりつつある。日本の今後にかかわる重要な問題であり、論争を深め
てほしいテーマだ。

 ただ、総裁候補と目される人の多くは現職閣僚であり、国会開会中は何かと、
総裁選絡みの言動は制約を受ける。

 彼らに日本の針路を大いに論じてもらうためにも、今国会は会期通りに閉じ
るのが良策ではないのか。延長するにしても、必要最小限にとどめるべきだ。