『日刊工業新聞』2006年5月26日付

文科省、イノベーション創出拠点形成事業で9産学協同提案を採択

 文部科学省が06年度から始めた「先端融合領域イノベーション創出拠点の
形成」事業に、九つの産学協同提案が採択された。東京大学が2件採択される
など旧帝大系が6件と多いが、広島大学とエルピーダメモリ、岡山大学と林原
生物化学研究所など、地元に工場や本社が立地する産学の組み合わせも選ばれ
た。 同拠点形成事業は3年後に継続案件を半分程度に絞り込むという極めて競
争的な点が特徴で、メリハリの効いたアメとムチによる産学連携事業といえそ
うだ。(山本佳世子)

 先端融合領域イノベーション創出拠点の形成事業は、"ポスト"スーパーCO
E(中核的研究拠点)に位置づけられ、スーパーCOEとは「企業連合」と
「融合研究」という点が大きな違いだ。 第3期科学技術基本計画が最も重視す
るイノベーション創出のため、期間は原則10年間。 だが、文科省の室谷展寛
科学技術振興調整費室長は「3年後には必ず2分の1から3分の1に絞り込む」
と強調する。

 助成額は当初は最大で年間5億円、絞り込み後は同10億円で、企業はそれ
と同額を供出する。 最近は中間評価結果で助成金を加減する競争的研究資金が
増えているが、ここまで厳しいものはない。 参加企業は場合によっては、1社
が3年で15億円を研究投資してもその後は中止になるかもしれないからだ。

 これからの革新的な研究は融合・境界領域に限られるといわれる。 イノベー
ションは、現在・未来社会の課題を解決していく通常の研究事業と違う仕組み
でないと生み出せない。 大胆な選択と集中はそのための手段だ。 採択された
大学・企業連合は、絞り込みに向けて「これから激しい競争が始まる」(室谷
室長)のだ。

 採択された内容をみると、広島大とエルピーダは、ナノデバイスに生体分子
を結合して腸内細菌の信号を外に発信するようなバイオセンサーや、メモリー
と合わせて集積したブレインチップの開発に取り組む。 岡山大と林原研など7
社は、がん細胞など標的に薬を送る材料のほか、動きを可視化する分子イメー
ジングや集積を高めるエネルギー照射技術を手掛ける。

 北海道大学は日立製作所の半導体陽電子放射断層撮影線(半導体PET)や、
塩野義製薬の糖鎖修飾たんぱく製剤を組み合わせた計測・創薬を目指す。 東京
大学とトヨタ自動車など7社は、少子高齢化社会に対応した自動車や家電、医
療、物流システムの構築に向けたIT・ロボット融合技術に取り組む。

 唯一、私立大で採択された東京女子医科大学は大学発ベンチャーも巻き込み、
細胞シートの転写による角膜簡単移植など、患者の生活の質(QOL)向上の
再生医療を推進する。

 このように採択、応募(46件)とも半分以上がライフサイエンスの融合技
術だったのが特徴。 産学連携で実績のある理工系単科大学の採択はなかったが、
北大と日立、広大とエルピーダなど、組織的連携協定を結ぶ組み合わせが入っ
ており、協定による成果という面も注目されそうだ。