『愛媛新聞』社説 2006年5月25日付

教育基本法改正案 拙速の審議は避けるべきだ


 終盤国会の目玉である教育基本法の改正案が、衆院特別委員会で実質審議入
りした。

 六月十八日の会期末まで実質の審議期間はわずかしかなく、順調に審議が進
んでも衆院通過はぎりぎりになるとみられる。ただ、小泉純一郎首相は会期延
長に否定的で、今国会での成立を目指すとしている。

 だれが見ても日程が苦しいのに、今国会の成立にこだわるのはおかしい。教
育の憲法ともいえる基本法を改正するのなら、国民の意見を十分に聞き、国会
では慎重に審議すべきだ。

 ぎりぎりの期間で拙速に審議するようなことは断じて避けなければならない。

 それにしても不審なのは、特別委の審議を聞いていても、今なぜ教育基本法
を改正するのかという根本の疑問が解消しないことである。

 改正の意義を問われた小泉首相は「あいさつやありがとうを言わない子ども
や大人が増えてきた。学校に行かない子やいじめもなくならない」などと答弁
している。

 あいさつなどは家庭や学校で教えているだろうし、教えてなければ指導すれ
ばいいことだ。なぜ基本法まで変えるのか、という答えにはなっていない。

 改正案は前文で「公共の精神を尊び」とあるように、公共性を重視する姿勢
を打ち出している。あいさつの勧めなどはその一環だろうが、果たして法律で
強制することだろうか。

 「学校に行かない子やいじめもなくならない」という説明もどうだろう。現
在の教育現場の荒廃はゆがんだ受験体制、受験教育が原因になっている部分が
多いと思われる。

 「公共心」や「国と郷土を愛する態度」などを条文化したからといって不登
校やいじめ、非行がなくなるとは思えない。法改正よりもっと先にやるべきこ
とはいっぱいあるはずだ。

 小泉首相が家庭教育の重要性などに言及する際、よく「法律以前の問題」と
いう言葉を使う。まさに法律以前にやるべき課題が多いのであり、基本法改正
の緊急性はないはずだ。

 特別委で答弁する首相を見ていると、どこか表情がうつろで答弁に熱意が感
じられない。首相は本当に法改正の必要性を感じているのか。そんな疑いさえ
持ってしまう。

 現在の基本法のどこがどう問題なのか。それをはっきり国民に説明できない
のでは、改正案を持ち出す資格はない。首相には説明責任をしっかり果たすよ
う求めたい。

 民主党は対案の「日本国教育基本法案」をまとめ提出した。懸案の「愛国心」
については、政府案が「我が国と郷土を愛する態度」とぼかした表現をしたの
に対し、民主党案は「日本を愛する心を涵養(かんよう)」とストレートに表
現している。教育予算の確保を重視する姿勢をアピールしていることなども特
徴だ。

 「態度」と「心」はどう違うのか、など両案をじっくり比較検討することも
必要だ。そのためにも、時間を十分かけて審議しなければならない。