『神戸新聞』2006年5月24日付

「慎重な議論を」声強く 教育基本法改正案きょう審議入り


 「愛国心」に関する表現をめぐり、二十四日に衆院特別委員会で審議入りす
る教育基本法改正案について、兵庫県内でも集会や街頭活動など動きが活発に
なっている。目立つのは「国民的議論が尽くされていない」「法律で縛るのは
なじまない」と慎重さを訴える声だ。一方、兵庫県教委はもっと日本の文化や
歴史を教えようと、独自科目を設ける動きを強めている。国を愛する心とは。
学校現場で何を教えるのか。約六十年ぶりの法改正は多くの論点を突き付けて
いる。

 政府案は「我が国と郷土を愛する態度を養う」と条文で表記。民主党は「日
本を愛する心を涵養(かんよう)する」との表現を前文に入れた対案を示す。

 これに対し、県弁護士会は「国民への説明と議論が不十分」と反対声明を発
表、集会を開いた。

 教育現場では、県教職員組合が法改正に反対するチラシを二十万枚作製、一
般家庭のポストへの配布を始めた。山名幸一委員長代行は「基本法は学習指導
要領などすべての根拠となる。『国を愛する態度を養う』視点の教科書ができ、
授業内容まで強制される恐れがある」。一方で「現場教師が法改正の意味合い
を十分分かっていない」と危ぐする。

 県高校教職員組合も五月末と六月初めに、ターミナルなどでビラ配りや署名
集めを計画。「今国会で成立させるのはあまりにも拙速」(永井章夫書記長)
との立場だ。

 違う視点から法改正に異議を唱える声もある。県教委がつくろうとしている
高校の科目「日本の文化(仮称)」。歌舞伎や茶道など文化・芸能について由
来や歴史的背景を学ぶ。来年度からの全県立高校導入に向け、近く副読本作成
が始まる。

 構想委員長を務める中村哲・兵庫教育大大学院教授(和文化教育)は「法律
への明記は子どもの価値観やものの見方を強制することにつながり、教育にな
じまない」と指摘。「国を愛する気持ちは大切だが、目的にするものではない。
(科目作成のように)具体的で自然なアプローチこそ気持ちが培われる」と話
す。

 県教委の岡野幸弘教育次長も「自分の国を知り、発信できる生徒を育てるの
がねらいだ」と、国会での法改正との違いを強調している。(徳永恭子、宮本
万里子)

 教育基本法改正 教育基本法は1947年に施行、「教育の憲法」と呼ばれ
る。改正案議論の焦点は「愛国心」に関する表現。政府案では第二条に「伝統
と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他
国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」。民主党の対案は
前文に盛り込み、「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い(中略)他国や他文
化を理解し、新たな文明の創造を希求することである」としている。