『中日新聞』2006年5月22日付

研修医不足に悩む三重大病院
新制度導入3年 解決策まだ見えず


 県内各地の拠点病院で医師不足問題が相次いで表面化している。その背景に
あるのが、各病院に医師を派遣していた三重大医学部付属病院の医師不足だ。
2004年に始まった卒後臨床研修制度で幅広く研修先を選べるようになり、
三重大病院に残る卒業生が激減。大学側は研修医の獲得に懸命だが、解決策は
見えていない。(三重総局・矢野修平)

 三重大病院のある医師が嘆く。「地域の医師配分という医局が持っていた良
い部分を、新研修制度は壊してしまった」

 「医局」とは、医学部各講座の教授を頂点とした縦割りの非公式組織。系列
病院も含め、所属医師の実質的人事権を、トップに立つ教授が握る。その強い
裁量が「行き手の少ないへき地の病院への医師派遣も可能にしていた」という。

 これまで、医師免許を取得した新人医師の約7割は、出身大学の付属病院の
医局に入り、1年目の研修を受けていた。しかし、医局中心の研修は地域医療
との接点が少なく、専門の診療科に偏りがちだとの問題が指摘され、2年間の
卒後臨床研修が04年から義務化された。研修先は、全国の病院と卒業生本人
が希望を「マッチング」させて決める。その結果、労働環境の良い民間病院に
新人医師が流れた。

 毎年、約100人の卒業生を送り出す三重大医学部では、それまで60人前
後の研修医が入局していた。ところが、新制度になった04年は10人、05
年は6人、今春は3人しか付属病院に残らなかった。この3年で総医局員数は
82人減った。医局の"原資"はやせ細り、地域の病院への医師派遣が難しくなっ
た。

 今春、三重大を卒業して四日市市立四日市病院を研修先に選んだ新人医師た
ちは言う。「風邪から心肺停止まで幅広く経験できる」「大学病院がやってい
ない1次救急をしっかり学べる」「症例数が多い」「津より都会で名古屋も近
い」…。

 同病院は新制度の導入後、毎年定員を大きく上回る応募を集めている。宮内
正之診療部長は「多くの患者を抱えており、質の高い若い医師の確保は重要。
新制度はプラスになった」と話す。

 危機感を募らせる三重大病院は今年から、循環器、消化器、呼吸器など各分
野の内科医5人が医局の壁を超えてチームを組み、回診などを通じて研修医を
教育する内科研修システムを導入した。

 ある指導医は「医局が壁を作っている状況じゃない。そこまで追い込まれた
とも言える」。三重大出身で研修1年目の中野知沙子さん(25)は「将来内
科医を目指しており、多くの先生の考え方に触れられる」と話す。

 「大学病院でも偏りなく一通りの疾患を学ぶことができる。症例数も大切だ
が、量だけでなく質も大切」と卒後臨床研修部長の井阪直樹助教授は力を込め
る。「一番の弱点」という救急研修についても「研修医15人の見込みが立て
ば、1次救急を受け入れる体制を組みたい。それまでは市内の病院や医師会と
の協力体制を強化し、新たなトレーニングシステムを準備したい」という。

 一方で「学生の自由意思が尊重されるマッチングでは、地方大学から若い医
師が離れるのは自然の流れ」と認め、こうつぶやく。「充実感を味わえるコー
スは用意できつつある。しかし、肝心の主役がいなければ…」