『沖縄タイムス』社説 2006年5月20日付


[教育基本法改正案]
愛国心強制する結果招く


 終盤国会の焦点である教育基本法改正案の審議が衆議院で始まった。会期末
まで約一カ月。与党は特別委員会で集中審議し、成立を急ぐ構えだ。

 しかし今改正の必要があるのか疑問だ。法案は戦後教育を大転換する内容で、
当事者である子どもたちの立場にたった幅広い論議が必要だ。

 教育基本法は日本国憲法とともに「個の尊重」を重視する戦後教育を支えて
きた。両法は双生児のような存在と表現してもいい。

 法改正を目指す根底には、憲法改定の前に、まず教育基本法からという思惑
もあるのだろう。それだけに今回の改正の意味合いは重大である。

 小泉純一郎首相は改正案提出の本会議で「法制定から半世紀経過し、教育を
取り巻く状況は大きく変化。道徳心や自立心、公共の精神などの重視が求めら
れている」「新しい教育理念を明確にして国民の共通理解を図り、国の未来を
切り開く教育の実現を目指す」と改正理由を述べている。

 これまで、少年の凶悪犯罪などが発生するたびに、保守的勢力は伝統の尊重
の否定が公共心の希薄化につながり、個の尊重が無責任を生んできたなどと批
判してきた。

 しかし、凶悪な少年犯罪の発生と教育基本法を直接結び付けて論じるのは論
理が飛躍し過ぎている。

 情報化や少子高齢化、核家族化などが進み、家族や地域の変容など教育を取
り巻く環境が変化し、いじめや校内暴力、若者の意欲の低下などの課題が生じ
ているのは確か。しかし、こうした問題を教育基本法だけのせいにするのは無
理がある。

 都市化や消費社会化が進み、家庭、学校、地域社会が力を失う中で、こうし
た種々の問題が増幅されているとする見方に説得力がある。

 こうした問題に法改正で対処する考え方では、処方せんを誤ってしまう。

 焦点の愛国心について、改正案は教育の目標として「我が国と郷土を愛する
態度を養う」としている。だが、その内実は愛国心と同じではないか。

 小泉首相は「児童や生徒の内心に立ち入って強制するのではない」と答弁し
ているが、並行して進む学習指導要領の改定作業で到達目標明確化の方針が出
ている。

 憲法が保障する思想・良心の自由、内心の自由に、公権力が踏み込むような
結果を招きかねない危険性がある。未来を担う子どもたちを、国にとって都合
のいい存在に育てかねない。

 法的な義務はないと確認したはずの国旗国歌法のその後の運用をみても、強
制につながらないとは言えない。