『中国新聞』社説 2006年5月19日付

教育基本法改正案 強行採決避ける道探れ


 国会の会期末(六月十八日)まで、残り一カ月を切った。政府・与党は、終
盤国会の焦点とされる教育基本法改正案などの処理をめぐり、会期延長に踏み
切るのか。緊迫した局面も予想される。

 改正の対象になっている教育基本法は、戦後間もない一九四七年に制定され
た。「教育の憲法」とも呼ばれる。法の施行から約六十年。初めての見直しは、
この国のあすを担う子どもたちの生き方を大きく左右する影響力を持つ。

 百年の計を誤らないためにも、拙速な審議は厳に慎みたい。強行採決など数
に頼んだ強引な国会運営では、とても国民の理解は得られまい。

 政府・与党は今国会での法案成立を目指し、十六日の衆院本会議で提案の趣
旨を説明。審議は始まったばかりだ。与野党の立場の開きの大きさなどから、
与党内には「四十日程度の大幅な会期延長は不可避」との見方もある。秋の自
民党総裁選期日もにらみながら、与野党間の激しい駆け引きが続きそうだ。

 こうした状況の中、与党内で強行採決への誘惑が高まることは想像に難くな
い。医療制度改革関連法案が、委員会での強行採決を経てきのうの衆院本会議
で可決され、直ちに参院に送付されているだけに、なおさらである。

 おとといの党首討論で、民主党の小沢一郎代表は小泉純一郎首相に審議が煮
詰まらないままの強行採決を控えるように要請。小泉首相も賛意を示した。小
沢代表が主張するように、重要法案であればあるほど少数意見に耳を傾けるこ
とは、健全な民主主義を守り育てるために不可欠の要件だ。首相の賛意が本当
なら、今後の審議にリーダーシップを発揮すべきだ。

 審議入りした教育基本法改正案の最大の特徴は、政府・与党、民主党案とも
に「愛国心」の表現が盛り込まれている点だろう。

 政府・与党案は「我が国と郷土を愛する態度」などと、印象を薄めるのに腐
心した跡が見える。一方の民主党案は、「強制力をもたせないように」と、与
党案のように条文には明記せず、前文に挿入した。

 しかし、共産、社民両党は「戦前回帰につながる」として廃案を主張。教育
現場でも、戸惑いや反発が少なくない。

 こうした隔たりが埋まらないまま、強行採決に至る事態は断じて避けなけれ
ばならない。審議未了なら仕切り直しをすればいい。