『朝日新聞』2006年5月18日付

努力するほど「ノルマ↑+交付金↓」
博物館、独法化で新たな受難


 五年前に独立行政法人になった国立博物館と国立美術館が、新たな苦難に直
面している。この4月から新しい5年間の「中期計画」期間に入ったが、経営
努力すればするほど高い「ノルマ」が課せられ、後で自らが苦しむというシス
テムが明らかになった。一方、独法化のメリットとされていた報奨金制度も十
分に機能せず、ダブルパンチを受けた格好だ。結果、料金値上げという事態に
なってきた。
(編集委員・田中三蔵)

 独法化した館は、国からの補助である「運営費交付金」と「自己収入」で運
営される。東京、京都、奈良の国立博物館3館(九州は昨秋開館)を見ると、
独法化以降の努力ぶりがよくわかる。以前の5年間の平均に比べて、自己収入
の平均は約1・4倍の8億8700万円に増えた。

 集客力のある企画展を工夫したり、ファッションショーやコンサートなど他
催事に会場を貸したりした成果だ。入館者数も年間平均で、1・3倍の210
万人に達した。

 今回の5年間の「自己収入予算額」(ノルマ)は、その01〜04年度の自
己収入の平均を元に決められた。そのため、06年度のノルマは、独法化以前
の平均から産出されていた05年度の、約5割増しの約10億4千万円に設定
された。

 逆に、運営費交付金は九州を除き、昨年度から3億円減額の40億円に。し
かもノルマは毎年1%上がることになっている。

 さらに、「目的積立金」の運用。「もうけ」にあたる剰余金が出た場合、法
人ごとに年度を越えてプールし、高額作品の購入などに充てることができる報
奨金制度だ。

 ところが、財務省は美術館(4館)、博物館(当時3館)に対し、02年度
までは、収入予算を上回った分を「経営努力」として目的積立金に認めたもの
の、03年度の入場料収入の剰余金は「前年度を下回った」という理由で認め
なかった。そのため博物館は、04年度は年度内に使い切ることに。査定の判
断基準となる「経営努力」とは何かが、不明確のままだ。

 加えて、博物館や美術館に文化財研究所などを含む文科省所管の計12の独
法は一律、新5年間で一般管理費は15%削減、事業費、人件費なども5%削
減が課せられている。

 その結果、国立博物館は10月から平常展観覧料を値上げすることを、先月
発表した。

 東京国立博物館では、一般は現行420円を600円、大学生は130円が
400円に、という大幅な値上げだ。九州は据え置くが、京都と奈良でも一般
を500円にするなどの値上げがある。

 01年春、独法化に突入した際に危惧された事態が現実化した、という指摘
もある。現場の学芸スタッフからは「どうせ何をやってもよくならない」とか、
「誰と、どこから議論してよいかわからない状態。ただ時の過ぎゆくのを待っ
ている」という声を聞く。

 国の文化活動の中心的存在であるべき各施設の疲弊、士気低下。文化遺産は
きちんと守られ、新しい創造を生む基盤は作られるのだろうか。