『産経新聞』2006年5月16日付

民主、新教基法案要綱を了承 「宗教」自公にくさび


 民主党は十五日、党教育問題調査会(鳩山由紀夫会長)の総会で、新法「日
本国教育基本法案」の要綱を原案通り了承した。今月中にも衆院に提出する。
自民、公明両党が明記を避けた「愛国心」や「宗教教育」の必要性を強調した
同法案に対しては、「政局的な意図が込められている」(安倍晋三官房長官)
との警戒感も出ている。

 民主党案をまとめた責任者は総会後の十五日夕、安倍氏の発言について「与
党から賛同者がないと民主党案は成立しないことも事実だ」と述べ、政府案に
否定的な自民党の一部議員への配慮をにじませた。「日本を愛する心の涵養
(かんよう)」をうたった民主党案に対し、政府案は「国と郷土を愛する態度
を養う」という抑制的な表現にとどまっている。このため、「愛国心」という
言葉そのものの条文化を求めていた自民党議員には、民主党案の方が賛同しや
すいはず−との読みがある。

 宗教教育への言及もポイントだ。「全日本仏教会(全仏)」が自民、民主両
党に要望した、「宗教的な伝統や文化に関する基本的知識および意義は、教育
上これを尊重しなければならない」などとした改正試案を、ほぼ踏襲した。

 全仏は伝統仏教の主要五十八宗派で組織される財団法人。全国寺院の約九割
が加盟し、公明党の支持母体の創価学会は加盟していない。全仏側は「自民党
が党議拘束をかければ、政府案が成立する。だが、自民党内にもわれわれの訴
えに理解を示してくれる議員もいる」(社会人権部)と、同党内からの“造反”
への期待感を隠さない。

 一方、小泉純一郎首相は十五日夜、首相官邸で記者団に「対案を出すのはい
いことだ。もともと対立する法案ではない」と余裕を見せた。

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【民主案要綱の要旨】

 民主党の「日本国教育基本法案」要綱の要旨は次の通り。

 ▽前文 心身ともに健やかな人間の育成は、教育の原点である家庭と、学校、
地域、社会の広義の教育の力によって達成される。われわれが直面する課題は、
自由と責任についての正しい認識と、人と人、国と国、宗教と宗教、人類と自
然との間に、共に生き、互いに生かされるという共生の精神を醸成することで
ある。われわれが目指す教育は、人間の尊厳と平和を重んじ、生命の尊さを知
り、真理と正義を愛し、美しいものを美しいと感ずる心をはぐくみ、創造性に
富んだ、人格の向上発展を目指す人間の育成だ。さらに、自立し、自律の精神
を持ち、個人や社会に起こる不条理な出来事に対して、連帯で取り組む豊かな
人間性と、公共の精神を大切にする人間の育成だ。同時に、日本を愛する心を
涵養(かんよう)し、祖先を敬い、子孫に想(おも)いをいたし、伝統、文化、
芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を
希求することだ。国政の中心に教育をすえ、日本国憲法の精神と新たな理念に
基づく教育に日本の明日を託す決意をもって、日本国教育基本法を制定する。

 ▽学習権 何人も生涯にわたって、健康で文化的な生活を営むための学びを
十分に奨励・支援・保障され、内容を選択・決定する権利を有する。

 ▽学校教育 国と地方公共団体はすべての国民と日本に居住する外国人に対
し、適切かつ最善な学校教育の機会確保に努めなければならない。

 ▽宗教教育 宗教的な伝統や文化に関する基本的知識の修得と宗教の意義の
理解、宗教的感性の涵養と宗教に関する寛容の態度を養うことは、教育上尊重
されなければならない。国、地方公共団体と学校は、特定の宗教教義に基づく
宗教教育、宗教的活動をしてはならない。

 ▽教育行政 地方公共団体が設置する学校は、保護者、地域住民、教育専門
家、学校関係者などが参画する学校理事会を設置し、主体的・自律的運営を行
う。

 ▽教育財政 政府は、国内総生産に対する公教育財政支出の比率を指標とし
て、公教育費の確保・充実の目標を教育振興計画に盛り込む。国と地方公共団
体は、計画の実施に必要な十分な予算を安定的に確保しなければならない。