『読売新聞』社説 2006年5月14日付

[科学技術計画]「成果を生む人材を育てられるか」


 日本の産業を支える科学技術を、一層伸ばしたい。

 今後5年間の科学技術政策を定めた「第3期科学技術基本計画」が始まった。

 厳しい財政状況にもかかわらず、5年間に投じる予算総額として、25兆円
という大きな目標を掲げている。1期の17兆円、2期の24兆円を上回る。

 初年度となる2006年度も、3兆5733億円と巨額の予算を確保した。

 この投資を十分に生かして、日本が目指す「科学技術創造立国」を実現しな
くてはならない。

 そのためになすべき課題は、大きく二つある。成果を社会に還元する仕組み
の構築と、優秀な人材の確保だ。第3期計画も、これを基本政策としている。

 どちらも、容易ではない。

 大学などの研究開発は、もともと、すぐ製品化につながるものではない。巨
大な実験装置の建設なども、どんな成果が上がったか、見えにくい。「研究の
ための研究」と、産業界から批判が強い。

 基本計画を策定した政府の総合科学技術会議は、こうした批判に応えて、研
究課題ごとに具体的な目標を設定した。日本の大型ロケットH2Aの打ち上げ
成功率を90%にするなど、273の課題で目標を掲げている。

 総合科学技術会議は、目標通り研究開発が進んでいるかどうか評価する体制
を整える。成果がなければ、従来のようにズルズルと続けず、進め方を修正し、
場合によっては思い切って廃止するなど厳しい姿勢で臨むべきだ。

 273課題のうち、革新的ながん治療の開発など62件は、当初から、予算
を集中投資する「戦略重点科学技術」に指定されている。社会的な必要性が高
いためだ。実現へ、後押しが求められる。

 基礎研究も育てなくてはならない。すぐに成果が見えなかったり、目標を設
定できなかったりしても、そこから革新的な科学技術が生まれることがある。

 米国は、10年間で基礎研究費を倍増させる方針を打ち出している。総合科
学技術会議も基礎研究の充実策を検討し始めた。早急に結論を出す必要がある。

 人材確保も課題は多い。そもそも科学技術への国民の関心が薄れている。大
学進学でも、工学系を中心に理工系を目指す生徒は、ここ数年、減る一方だ。
1990年代に比べると、志願者は半減している、というデータもある。

 基本計画は、教育現場で理数系科目の学習を充実させるなど、国民の科学技
術への関心を高める施策が必要、としている。対策を急がないと、科学技術創
造立国を支える人がいなくなる。