『読売新聞』2006年5月14日付 変わる大学 (6)国立大 寄付獲得が急務 交付金毎年1%ずつ削減 「京都の街並みを一望できるのが自慢です」 京都市西部の丘陵地にある京都大学桂キャンパス。工学研究科の竹田哲人・ 広報渉外掛長が案内してくれたのが、ローム記念館にある300人収容の大ホー ルだった。ステージ背部はガラス張り。聴衆に古都の景観を楽しんでもらおう という工夫だ。 記念館は昨年4月、地元の半導体メーカー「ローム」が寄付したもの。建設 費は約20億円。ナノテクの実験施設などを備え、京大の産学官連携の拠点の 一つとなっている。 さらに京大では、任天堂の山内溥(ひろし)相談役が今年2月に新病棟建設 費用として70億円の寄付を申し出たほか、匿名の寄付で図書館建設を計画し ている。 大型の寄付に頼り切っているわけではない。安定的な外部資金獲得策として 打ち出したのが、京大ブランドを活用した企業協賛制度。国立大学法人初の試 みで成約はまだないが、企業が京大に年間3000万円程度の協賛金を出すと、 京大支援の公式マークが使えるというもの。京大はこの金を、奨学金や留学費 用などの学生支援にあてるという。 ◇ 「04年に独立法人となった国立大にとって、こうした外部資金の獲得は重 要な経営戦略の一つとなっている」。国立大学マネジメント研究会会長で大学 評価・学位授与機構の本間政雄教授はこう強調する。 本間教授によると、一般の国立大学法人は収入の約5割強が国からの運営交 付金。文系単科大だと7〜8割に達する。この交付金も、国の厳しい財政を反 映して毎年1%ずつ削減されることが決まっている。 このため各大学は自前で外部資金を獲得し、研究や教育体制を強化すること が急務となっている。名古屋大が今年3月、200億円を目標に基金を設けた ほか、三重大や九州大など多くの大学が寄付金の受け皿となる基金を設立。東 京大、一橋大などは遺言による寄付を受け付けるため、信託銀行と提携した。 ◇ それでもまだ「日本の大学は寄付の『獲得』ではなく、『受け入れる』とい う段階」というのは、米国の大学の寄付事情に詳しい野村証券金融経済研究所 の片山英治主任研究員だ。 米国最強の“集金力”を持つハーバード大の寄付総額は594億円(04 年)。東大の約6倍だ。米国では学長ら経営陣が積極的に寄付募集にかかわり、 寄付募集の専門スタッフを抱えている。陣容でも、意欲でも日本は見劣りがす る。 片山さんは指摘する。「日本の大学も経営陣がリーダーシップを発揮すべき だ。寄付が期待できる個人との関係強化に先行投資することも必要だ」(吉田 昌史) |