『毎日新聞』2006年5月12日付

<教育基本法>民主が対案決める 「国」の表現避ける


 民主党は12日の「教育基本法に関する検討会」(座長・西岡武夫元文相)
で、政府の教育基本法改正案に対する対案を決めた。対案は前文と21条で構
成。焦点の愛国心表記については「日本を愛する心を涵養(かんよう)する」
という表現を盛り込み、「国」という表現は避けた。15日に上部機関「教育
基本問題調査会」(会長・鳩山由紀夫幹事長)で正式決定する。

 愛国心をめぐっては、政府案は「教育の目標」を定める第2条に「我が国と
郷土を愛する態度を養う」と表記。民主党案は前文に「日本を愛する心を涵養
し、祖先を敬い、子孫に想(おも)いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学
術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求する」と記
述した。前文に盛り込んだのは「条項に入れれば教育現場での愛国心の強要に
波及する」との判断。さらに「涵養」という言葉で強制イメージの緩和を図っ
た。

 愛する対象を「国」ではなく「日本」とした理由について、鳩山氏は記者会
見で「『国』というと政治機構が予想される恐れが消えないが、(日本という)
名前を書き入れることで、その恐れも消える」と説明した。

 検討会では「愛国心が本文に入らないと法的効果が働かない」「前文でも法
律に書き込めば、教育現場での強制につながる」など賛否両論が出たが、最後
は西岡座長に取りまとめを一任した。【衛藤達生、山田夢留】

 ◇民主党が12日にまとめた教育基本法改正の対案の前文要旨は次の通り。

 我々が直面する課題は、自由と責任についての正しい認識と、人と人、国と
国、宗教と宗教、人類と自然との間に共生の精神を醸成することである。

 我々が目指す教育は、人間の尊厳と平和を重んじ、生命の尊さを知り、真理
と正義を愛し、美しいものを美しいと感ずる心をはぐくみ、創造性に富んだ、
人格の向上発展を目指す人間の育成である。

 さらに、自立し、自律の精神を持ち、個人や社会に起こる不条理な出来事に
対して、連帯で取り組む豊かな人間性と、公共の精神を大切にする人間の育成
である。

 日本を愛する心を涵養(かんよう)し、祖先を敬い、子孫に想(おも)いを
いたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、
新たな文明の創造を希求する。