『朝日新聞』2006年5月14日付

国立大のベンチャー株取得に手引書 文科省


 文部科学省は、国立大学が「大学発ベンチャー」の株式やストックオプショ
ン(新株予約権)を得やすくするための手引書づくりに乗り出した。株取得は
大学と、資金が足りないベンチャー企業の双方にメリットがある。政府の知的
財産戦略本部が推進を打ち出したものの、実際に取得したのは東京大の1件だ
けにとどまっていた。

 文科省によると、税金で運営される国立大学が株を持つと財政に穴があくリ
スクがあるため、好ましくないとされてきた。一方で、収入源がなく、多くの
研究資金がいるベンチャー企業にとって、大学から特許の譲渡を受けたり、実
施権を持ったりするために、現金を支払うのは大きな負担になる。

 私立大では大学発ベンチャーに出資している先例があることから、政府の知
的財産戦略本部は昨年、特許などの知的財産を提供する場合に限り、その対価
として株を取得できるよう法解釈を明確化。昨年3月、文科省が解禁を通知し
た。同省技術移転推進室は「大学にも上場に伴う売却益が狙えるなど利点があ
る」。

 ところが、昨年秋の時点で、東大がストックオプションを得たケースが一つ
だけ。検討中の大学は六つだった。

 取得に踏み切れない理由として「売却のタイミングがわからない」などの声
があった。このため、株価を急落させずに売却する方法やストックオプション
を株式に換えることなどを説明する手引書を今秋までに作り、大学の不安を解
消する。

 大学発ベンチャーは昨年3月現在で1112社設立されたが、上場は12社
にとどまっている。