日本新聞協会 紙面展望 2006年5月2日付

「愛国心」問題で賛否
教育基本法改正をめぐる社説
法改正の是非も論じる

 自民、公明両党による教育基本法の改正案が四月十三日、正式に決まった。
前文と全十八条からなる与党案は、最大の焦点だった「愛国心」について「我
が国と郷土を愛する態度」などの表現で合意したほか、前文に「公共の精神の
尊重」を盛り込んだ。同法の改正案がまとまったのは一九四七年の制定以来初
めてで、政府は二十八日に閣議決定。今国会で改正を目指す。四十一本の社・
論説が「愛国心」問題や改正の是非などを論じた。

現行法の基本理念を転換

 〈『公』を重視〉上毛・大分など「最後まで自公の主張が折り合わなかった
愛国心をめぐる表現は、結局『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた
我が国と郷土を愛する』という妥協的表現に落ち着いた。『国を愛し』とする
よう求める自民党に対し『国を大切にする』と主張した公明党の対立は結局、
公明党が歩み寄った印象だ」、琉球「前文には『公共の精神』などの文言を新
たに盛り込み、『公』重視の姿勢を打ち出している。(略)案通りに改正され
たら、戦前の国家主義の反省を基に『個人の尊厳』『個人の価値』を中心にし
た現行法の基本理念が大きく変わることになる」、熊本「教育基本法は、国や
自治体など教育する側を主な対象に目指すべき理念を定めたもので、国民の権
利を制限したり義務を命じたものではない。ところが、与党案は愛国心、公共
心、家庭教育の責任などを国から国民に注文するような内容に変化している」、
京都「与党の基本法改正検討会を舞台にした協議は三年に及んだが、『愛国心』
をめぐる文章いじりが中心だった。新たに前面に出した『公共の精神』なども
含め、教育改革にどう連動し、教育全体の姿を変えていくのか、定かでない」。

 〈愛国心I〉産経「『国を愛する』は明記されたものの、含みが多く、簡明な
文案とはいえない。『愛国心』の表現で、これだけもめる国は、おそらく日本
だけだろう。愛国心は、どの国の国民も当然持っているものだ。そして、愛国
者であることは最大の誇りとされる。国の根本法規である教育基本法は、もっ
と素直な表現であってほしい」、読売「『愛国心イコール戦前の教育』との考
え方は共産、社民両党とも主張している。民主党内にも、旧社会党系議員を中
心に同様の意見が根強い。だが、愛国心を教えることを否定的にとらえる国な
ど、日本以外にない。戦後の平和国家としての歩みを見ても、わが国が『戦前
の教育』に戻る可能性は、微塵(みじん)もない。(略)教育基本法の改正は
時代の要請である」、北國「改正ですぐに教育現場がよくなるものでもないが、
教育の指針は時代に合わせて速やかに正しておくべきだろう。(略)法改正に
は政府・与党のよほどの覚悟が必要であり、まさに本気度が試されていると認
識しなければなるまい」。

 〈愛国心II〉高知「どういう表現であれ、『愛国心』を法律に書き込めば、
強制力を伴って心の領域にまで踏み込み、内心の自由を侵すことにつながりか
ねない。その危うさは日の丸・君が代にみることができる。国旗・国歌法の施
行後、東京都などでは教員処分を背景にした強制が進んでいる」、北海道「国
が改正法を根拠にして『愛国心』を押し付けてくる恐れがある。(略)案には
『他国を尊重し』との文言も入ってはいる。しかし、時の政権が法律の条文か
ら都合の良い部分を取り出して、恣意(しい)的に運用することは、いまに始
まったことではないのである」、信毎「愛国心は憲法見直しでも論点の一つに
なっている。基本法を突破口に、憲法改正につなげようとする思惑も見え隠れ
する。教育基本法は憲法とセットで、戦後日本の針路を導く役目を果たしてき
た。(略)見直す必要は今は認められない」。

国民納得させる説明必要

 〈じっくり議論を〉毎日「(与党検討会の)議論の経過は公開されなかった。
今後の教育のあり方を決定づける法律の全面改正作業が、国民とは離れた『密
室』で進められたことは残念だ。(略)自公は今後の国会審議などで、国民を
十分に納得させるだけの説明責任を負っていることを肝に銘じるべきだ」、朝
日「(基本法を)急いで見直す必要が本当にあるのだろうか。基本法でうたっ
ているのは理念である。改正しなければ実現できない教育施策や教育改革があ
るというのなら、どんなものかを聞きたい」、中国「改正を目指す理由として
『教育の荒廃』などがあげられてきたが、改正で『荒廃』が解消するわけでも
なかろう。慎重な取り扱いと野党も含めた幅広い議論が要る」、中日・東京
「基本法は教育の憲法である。その基本法で定められれば、学校現場で教育内
容を規定している学習指導要領などにも、より色濃く反映されよう。(略)教
育は国民みんなのものだ。改正の是非をじっくりと考えたい」。  (審査室)