『東京新聞』2006年5月7日付

万機☆創論
愛国心の表記  私が正しい!

 「愛国心」をめぐり議論が続いていた与党の教育基本法改正案は「我が国と
郷土を愛する態度を養う」との文言で決着した。ストレートな表現は避けつつ、
「愛国心」の理念は盛り込むという「苦心の作」に、自公両党とも矛を収めた
が、自民党タカ派には不満が残る結果となった。

公明党衆議院議員 斉藤 鉄夫氏
「ナショナリズムはダメ」

 ―長文で分かりにくい表現になったが。

 「党内にも『あまり美しくない文章』だという意見はある。多方面の意見を
調整し、深く議論した結果ということで、お許しをいただきたい」

 ―党は「国を大切にする」との表現を主張していた。

 「愛国心そのものは否定していなかった。排他的なナショナリズムではなく、
郷土愛の意味なら許容範囲だった」

 ―なぜ「国を愛する」ではダメなのか。

 「改正案には『国』という言葉が十数カ所出てくる。それは『国および公共
団体』のように、すべて統治機構を意味している。同じ言葉が同じ法律の中に
使われると、愛国心は統治機構への愛だと読めてしまう」

 ―「愛する」に反対した理由は。

 「『愛』には、むやみで無批判な愛情という意味もある。国はそういう対象
なのか。愛国心という言葉で、たくさんの人が戦争に駆り立てられた歴史も踏
まえた」

 ―最終的な賛成理由は。

 「『国』の中に統治機構が含まれないことが明確になったからだ」

 ―どこで明確になったのか。

 「『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた』との修飾語がつき『我
が国』とは、風土、文化、歴史だということが明確になった。『我が国』とい
う表現で、他の箇所の『国』とも区別ができた。『郷土を』が入ったことで、
郷土愛も明確にできた」

 ―ナショナリズムの要素は排除できたのか。

 「ナショナリズムとは自国の利益しか考えない排斥主義だ。『他国を尊重し、
国際社会の平和と発展に寄与する態度』という部分が、排斥主義を否定してい
る」

 ―最終的な文面に対する不満はないのか。

 「ないとは言えない。百パーセントではない。でも、それは自民党も一緒。
深い議論をして到達した合意なので、大切にしたい。

(聞き手・新開浩)

さいとう・てつお 東工大院修了。工学博士。建設会社勤務を経て、1993年衆
院選で初当選。衆院文部科学委員長、党政調副会長など歴任。与党の教育基本
法改正検討会のメンバーを務めた。比例代表中国ブロック。当選5回。54歳。


自民党衆院議員 萩生田 光一氏
「過ち犯さぬために必要」

 ―「愛国心」が、戦前の国家主義を想起させるとの指摘について、どう考え
るか。

 「戦前の記憶のある人たちが、『愛国心』の言葉の下で戦争に突っ走った危
機感、嫌悪感を抱くのはよく分かる。しかし、(タカ派といわれる)われわれ
も、『国』は統治機構を含まず、家族、地域、あるいは学校、職場など自分を
とりまく環境というとらえ方で議論してきた。それよりも、法律に『愛国心』
を明記しないといけない教育現場の現状を憂うべきだ」

 ―教育現場からは、個人の内面や心を縛ることになる、との反発も出ている。

 「まったく理解できない。わざわざ法律でうたうのは、愛国心について教え
ない、あるいは『国を愛さなくてもいい』という教育が続けられてきたからだ。
今、どれだけの日本人がグローバル化した国際社会で立派にたち振る舞えるか。
やはり子どもたちに『国を愛する』ことをきちんと教えてあげないといけない。
その結果、国家は嫌いだと言うなら、それこそ内心の自由だが」

 ―「我が国と郷土を愛する態度」との表現についてどう考えるか。

 「『態度』は『心』と違って、ある意味『繕える』こともあり、残念だった
が、『国を愛する』という文言を法文に加えたことで、一歩も二歩も前進した
かなと思う」

 ―党文教族の幹部は自公合意を受け入れるよう、「タカ派」と称される若手
の説得に懸命だったようだが。

 「戦後生まれの国会議員が今や七割。戦争はいけない、悲惨だといいながら、
痛みを知らないし,血を流した仲間を背負った経験もない。だからこそ、戦争
に対する臆病な気持ちは、われわれほど持ち続けないといけないし、そういう
思いで,私はものを言っている。二度と過ちを犯さないために『愛国心』にこ
だわった。タカ派といわれているわれわれよりも、こだわりを持たない人たち
の方がむしろ心配ではないか」
(聞き手・岩田仲弘)

はぎうだ・こういち 明大卒。八王子市議、都議を経て2003年衆院選で初当選。
自民党青年局次長。「愛国心の涵養(かんよう)」を明記した「新教育基本法
案」を作成した超党派の教育基本法改正促進委員会理事。東京24区。当選2回。
42歳。