教育基本法関連声明・談話集
○日本私大教連中央執行委員会 2006年4月25日
○俵義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)2006年4月28日
○愛知県高等学校教職員組合 2006年4月28日
○全日本民主医療機関連合会 2006年4月28日
○日本高等学校教職員組合 2006年4月28日
○民主党幹事長鳩山由紀夫 2006年4月28日
○山田功(「子どもたちを大切に…いまこそ生かそう教育基本法」全国ネットワーク事務局長)2006年4月30日


声明
教育基本法改悪案の閣議決定・国会上程に反対する

             2006年4月25日
日本私立大学教職員組合連合
(日本私大教連)
中央執行委員会

 4月13日、与党「教育基本法改正に関する協議会」は、「教育基本法に盛り込
むべき項目と内容について(最終報告)」を合意確認しました。最終報告は前
文と18項目からなっており、教育基本法の「一部改正」ではなく新法の制定と
もいうべきものです。

 教育基本法は日本国憲法と一体に定められた基本法であり、憲法の精神を実
現する主権者を育むために、教育の原則を定めています。しかし最終報告には
戦争の反省がかけらもなく、さらには国民の教育権を明確に否定し、「国民に
対し直接に責任を負う教育」を戦前のような「国家のために国家が行う教育」
へと根本的に転換させる内容となっています。

 最終報告の持つ重大な問題点は、「愛国心」の押し付けです。内心の自由を
法律で律すること、国を愛することを法律で決めそれを教育の目標とすること
は、思想及び良心の自由を定めた憲法19条に明白に違反します。条文上の表現
の問題で済むことではありません。また非常に多くの徳目が盛り込まれ、国家
が内心に踏み込んでくる仕組みが顕著です。

 最終報告には「7、大学」「8、私立学校」と、私たちに直接関係する項目が
あります。あたかも高等教育や私立学校を大切にし、尊重するかのような装い
を凝らしています。しかし学校教育法に規定される大学の目的、私立学校の
「公の性質」や「重要な役割」は、すでに現行法体系の中で明確に位置付けら
れており、わざわざ新たに項を設ける必要性はまったくありません。むしろそ
の実現のための施策の充実こそいま切実に求められています。政府の怠慢を棚
上げし責任放棄を糊塗する装いは必要ありません。

 改悪案を議論してきた与党検討会は、配布された資料やメモを会議終了後に
すべて回収するという驚くべき密室主義で行われてきました。いかに国民に知
られてはまずい議論であったかがこの密室性に現れています。

 政府・与党は、連休前の閣議決定、今通常国会での成立を狙っています。

 私たちは政府に対し連休前の閣議決定はもちろん、国会に上程しないことを
強く要求します。そして最終報告を白紙に戻し、そもそも教育基本法を「改正」
する必要があるのかどうという原点に戻ったところから、国民的な議論を起こ
していくことを要求します。

以 上


【談話】政府の教育基本法改悪法案の国会上程に抗議する!
   2006年4月28日   俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)


 政府は、4月28日、現行教育基本法を抜本的に改悪する新しい教育基本法案を
閣議決定し国会に提出しました。

 この政府案は次のような多くの問題点をもつもので、私たちは、新教育基本
法案の国会上程に強い怒りをもって抗議し、この法案を廃案にするために断固
としてたたかうことを表明します。

 第一に、現行教育基本法は憲法と密接に結びついた準憲法的な教育の根本法
規ですが、政府案はこの憲法との関係をたちきるものです。「前文」に「日本
国憲法の精神にのっとり」という文言は残しましたが、さまざまな項目で憲法
の精神に反する内容が盛り込まれています。現行法の「前文」にある憲法9条と
深く結びついた「真理と平和を希求し」を「真理と正義を希求し」に変えたの
もその一つです。私たちはアメリカのイラク侵略戦争をはじめ近代の戦争、と
りわけ過去の日本のアジア侵略が「正義」の名前で行われたことを忘れてはな
りません。

 また、「第1条 教育の目的」から「個人の価値をたつとび」を削除し、それ
にかわって、「前文」に「公共の精神を尊び」「伝統を継承し」などを入れま
した。さらに、「教育の目的」に盛り込まれた「必要な資質」という規定は、
国家が「必要とする資質」を国民に要求できるというのものです。これらは、
個人と国家との関係を180度転換して、まず、国家があって個人はそれに従う存
在、教育は個人のためではなく国家のために行われるということに大転換する
ものです。これも憲法の理念に反するものです。これらは、自民党の新憲法草
案とも共通するもので、憲法改悪先取りし、「戦争をする国」の国民をつくる
教育を基本法に定めるねらいだといえます。

 第二に、現行法の「教育の方針」を「教育の目標」にかえ、「我が国と郷土
を愛する…態度を養う」をはじめ多くの徳目を盛り込み、それらの徳目につい
て「態度を養う」ことを教育の目標としています。「国と郷土を愛する」の前
に「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた」という文言があるので、
「統治機構の国を愛するのではない」としていますが、それは「愛国心教育」
の歯止めにはなりません。そのことは、国旗国歌法の国会審議で政府が何回も
「強制しない」と答弁したにもかかわらず、法成立後、文部科学省を先頭に東
京都教育委員会などによって異常な強制が行われていることをみれば明らかで
す。しかも、何を「伝統」とするのかがあいまいなままで、「伝統」と「愛国
心」が結び付けられて教育される危険性を、私たちは戦前・戦中にいやという
ほど体験してきたことを想起すべきです。

 政府案には、この「第2条 教育の目標」と「前文」に「国と郷土を愛する」
「公共の精神」など20を超える徳目が盛り込まれています。「目標」である以
上、これらの徳目は評価の対象になります。心は目に見えないもので、それが
現れるのが「態度」であり、したがって、「態度を養う」という規定によって、
心の中にまで国家や行政が踏み込んでくることになります。学校・教員は、こ
の目標が達成されているかどうかを絶えずチェックさせられることになります。
新教育基本法は、国が教育のあり方をがんじがらめにし、縛り上げる法律に、
教育基本法の性格を根本的に変質させるものです。21世紀日本の構想懇談会
(河合隼雄座長)の報告(2000年1月)や教育改革国民会議(江崎玲於奈座長)
の報告(2000年12月)がめざした、教育は「国民の権利」ではなく、「国家の
権利」であり、「若き国民の義務」「国家の統治行為」という国家主義の立場
を教育基本法の基本精神にするものといえます。

 第三に、現行法第10条の「教育は、不当な支配に服することなく」は残しま
したが、教育に国家や行政が介入してはならないことを規定した、教育は「国
民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」を削除しています。
さらに、「第9条 教員」の項で、教育が国民全体に直接責任を負うことを意味
する、現行法第6条2項の「教員は、全体の奉仕者」を削除しています。これら
の規定は、教育が国家(政府・文科省)や地方行政(教育委員会など)に対し
て責任を負うものではないことを定め、教育の自由、国家・行政の教育への介
入を禁止したものです。これらを削除したことによって、「不当な支配に服す
ることなく」はたんなるお題目になってしまいます。

 こうした骨抜きを行ったうえで政府案は、教育は「この法律及び他の法律の
定めるところにより行われるべき」と書き加え、さらに「国は、…教育に関す
る施策を策定し、実施しなければならない」と規定しています。これと教育振
興基本計画を基本法に盛り込むことによって、政府・行政権力が「法律にそっ
てやっている」と主張すれば、「日の丸・君が代」の強制や愛国心教育を進め
る根拠に使われ、政府・行政が教育内容や教育方法に公然と介入し、「不当な
支配」ができることになります。さらに、こうした規定を入れることによって、
国が子どもを「できる子」「できない子」に選別し、一部を国家に有用な人材
を育てるエリート教育と、圧倒的多数を「ただ実直な精神」(三浦朱門氏)だ
けを学ばせる、という差別教育を公然と推進することを可能にするものです。

 第四に、「学校教育」や「家庭教育」の内容は、子ども・国民の学習権を基
礎として国民の教育権を保障するものではなく、むしろ、国家の教育方針に国
民全体を従わせ、動員するものです。「男女平等教育」の削除、義務教育9年間
の年限規定の廃止なども重大な問題をもっています。また、新たに加えた「生
涯学習の理念」「大学」「私立学校」「幼児教育」などの項目は、どうしても
教育基本法に入れなければならないものでもありません。すでに、学校教育法
や私立学校法に書かれているものもあり、どうしても必要なものは、現行教育
基本法に基づいて法を制定すればいいものです。

 政府案は、与党の教育基本法の改正に関する協議会の最終報告とほとんど同
じ内容です。与党の検討会・協議会は、会議の中で配布された資料やメモをす
べて会議終了後に回収するという異常な秘密主義で行われました。教育は、国
民一人ひとりに直接かかわる重要な問題であり、社会や国のあり方をも左右す
るものです。教育の主人公は子どもであり、教員や保護者・国民です。政府は、
その主人公の目から隠れ、排除して、与党の一部議員だけでまとめた「寄木細
工」「妥協の産物」の与党案を、その発表からわずか2週間で政府案として国会
に上程しました。このような短期間での上程は、国民が内容について十分に知
り、議論を尽くし意見を述べる機会さえ奪う民主主義に反する暴挙であり、絶
対に容認できません。

 政府と自民党・公明党の与党は、この政府案について、特別委員会を設置し
国会の会期内に成立をめざすとしています。これは、総裁選挙や来年の一斉地
方選挙や参議院選挙をにらんで、何が何なんでも今国会中に成立させるという
自民党・公明党の党利党略によるものです。

 私たちは、日本を「戦争する国」に変えるための教育基本法案に断乎として
反対し、法案の廃案を目指して全国各地で反対世論をさらに高め、あらゆる可
能は活動を草の根から展開して、新教育基本法案の成立阻止のためにたたかう
ことを表明します。

                               以上。


       子どもと教科書全国ネット21

政府の教育基本法「改正法案」の上程に抗議する(声明)
2006年4月28日
愛知県高等学校教職員組合

 政府は本日(28日)、国会に教育基本法の「改正法案」を提出した。私たち
は、怒りを込めて「改正法案」提出に抗議するとともに、愛知県のすべての教
職員、父母、県民の皆さんと力を合わせて、教育基本法「改正案」を廃案にす
るため、全力をあげてたたかう決意を表明する。

 与党は「与党教育基本法改正協議会」の「中間報告」以来2年の間、検討内
容について国民に一切明らかにすることなく密室での協議を行ってきた。そし
ていくつかの政治決着にいたるや、特別委員会を設け短期間で一気に成立を期
そうとしている。いうまでもなく教育基本法は、「憲法の理想は、根本におい
て教育の力に待つべきもの」として定められたもので、「教育の憲法」と言わ
れるものである。教育の根本にかかわる問題であることから、国会において時
間をかけ国民の納得を得る開かれた議論を行うことが求められる。この点から
この国会での法案提出に断固として抗議する。

今回の「改正法案」については、次のような問題点がある。

 第1に、「改正法案」が、「教育の目標」として「国と郷土を愛する」と書
き込んだことである。「愛国心」は子どもと国民を侵略戦争に駆り立てる道具
として使われてきた特別の歴史を持った言葉です。「改正法案」が教育の目標
に「愛国心」や「公共の精神」を掲げ、それを強制する学校につくり変えよう
していることはたいへんな問題である。単に子どもたち「内心の自由」に抵触
するだけでなく、ある国会議員が教育基本法の改正の目的を「お国のために命
を捧げる若者を育てる。それにつきる」と発言していることからも、憲法9条を
「改正」して自衛隊を海外で武力行使のできる軍隊にする、そのための人づく
りがねらわれていることは明らかであり断じて許せないものである。

 第2に、「改正法案」が、教育基本法の「教育は、…国民全体に対し直接責
任を負って行われるべき」という条項を削除し、「法律の定めるところにより
行われなければならない」として「教育振興基本計画」を定め、これによって
国家や教育行政が目標管理により教育内容に直接介入する道をつけたことであ
る。これによって、教育は国会にはかることなく時の政府の思いのままに、教
育がすすめられることになるものでとうてい認められるものではない。さらに
教育行政は「諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」との条
項を削除し教育の条件整備を放棄するものになっていること許すことはできな
い。

 第3に、2年前の「与党教育基本法改正協議会」の中間報告では「教育の機会
均等」原則の排除と能力主義教育を打ち出したが、この間の社会格差の広がり
が社会問題になるなかでさすがにこのことは取り下げられている。しかし、義
務教育で行う普通教育の項にことさら「各個人の有する能力を伸ばし」との条
項を滑り込ませ、義務教育段階から能力主義教育を是とする流れにお墨付きを
与えるものとなっている。このことは、日本の子どもたちが「過度の競争教育
によるストレスのもとに置かれている」とするユネスコ勧告をみるまでもなく、
青少年の凶悪犯罪や不登校などの今日子どもたちを巡る教育の諸課題の解決に
つながらない。さらに、学校の「規律を重んじる」と子どもたちを縛ることか
らは、生き生きとした学校生活や「自主的な精神」などはおよそ育まれるもの
ではなく、このような子どもの夢と希望を奪う改悪に断固として反対である。

 その他、「男女共学」の削除、義務教育の年限「9年」の削除、大学における
教育研究の「自由」の矮小化、家庭教育への行政権力の介入など問題点はさま
ざまにあることから、この「改正法案」の撤回を要求するものである。

 今日の教育の諸問題の大きな部分は、教育行政によって教育基本法の理念の
実現への努力が十分取られてこなかったことにある。私たちは、教育基本法は
決して「古く」もなく、「有効性が失われ」てもいないと考えている。私たち
教職員は、平和を大切にし、1人ひとりの個性が花開く教育を実現するため、
教育基本法の「改正法案」に断固反対するとともに成立を阻止するために全力
をあげてたたかう決意である


<声明>
教育基本法「改正」案の国会提出に抗議する
2006年4月28日
全日本民主医療機関連合会
会長  肥田 泰

 自民・公明両党は本日、教育基本法「改正」案を閣議決定し、国会へ提出し
ました。私たち全日本民医連は、憲法と平和を守る立場から、憲法にもとづい
た「教育」をめざす教育基本法の理念をふみにじる「改正」案の国会上程に断
固反対します。

 教育基本法「改正」案では「愛国心」「公共の精神」などを「教育の目標」
として強要し、国や社会のために子供や国民がなさなければならない義務を学
校教育を通して押しつけるものとなっています。さらに「改正」案は憲法9条
改悪の策動と一体となった、アメリカとともに「戦争する国」を支える人づく
りをすすめるものであり、断じて認める訳にはいきません。

 また今回の教育基本法「改正」案は、政府が教育を思いのままに支配しよう
とするものです。東京都の「日の丸」「君が代」事件にみられるように、内心
の自由に対して国と行政が介入し、思想及び良心の自由をうばうものであり、
絶対に許すことはできません。

 一方で、小泉自公政権は、「格差の拡大」「庶民大増税」「社会保障改悪」
により、かつてない痛みを国民に押しつけており、「国民を愛する」ことも出
来ない小泉自公政権が、「国と郷土を愛する・・・・・態度を養う」ことを語
る資格はありません。私たち全日本民医連は教育基本法「改正」案の国会上程
に抗議し、撤回することを強く求めます。
以上


教育基本法改悪案の国会提出に抗議し、
父母・国民のみなさんと力を合わせ廃案をめざします(声明)
2006年4月28日
日本高等学校教職員組合

(1)本日政府は、教育の憲法ともいうべき教育基本法の改悪案を閣議決定し、国
会に提出しました。私たちは、与党自民党・公明党の一部の議員が密室協議で
準備してきた改悪案を、一気に成立させようとしていることに厳しく抗議し、
法案の廃案を求めるものです。

 教育基本法改悪のねらいは、米軍基地「再編」とも連動した憲法9条改悪・
戦争する「国づくり」のための「人づくり」にあり、また、憲法改悪を視野に
入れた教育の「構造改革」のさらなる推進にあります。さらに、国民から教育
権を奪い、国家が直接的に教育を支配するという重大な改悪です。日高教は、
全国の高校・障害児学校教職員が「教え子を再び戦場に送らない」決意のもと、
総力をあげて改悪阻止のたたかいに立ち上がることを呼びかけます。また、父
母・国民のみなさんと堅く手をつなぎ法案の廃案めざし世論と運動をひろげる
ために奮闘する決意を明らかにするものです

(2)法案は、憲法の民主的原則に反するものになっています。

 第1に「我が国と郷土を愛する(法案2条 教育の目標)ことを規定し、明確
に愛国心教育を持ち込もうとしています。個人の選択や内心の自由に属する
「愛国心」を、国定の「愛国心」に限って教育にもちこむねらいは、憲法9条
を改悪し「自衛軍」を規定した自民党「新憲法草案」と重ねてみると明らかで
す。

 第2に、国家目的のための「人づくり」を巧妙に規定したことです。法案は
「自主的、精神に充ちた」(第1条 教育の目的)を削除し「必要な資質を備え
た」(法案第1条 同)を挿入し、その「資質」が法案前文と重ねて「公共の精
神」と読みとれるようにしています。そして「公共の精神に基づき、主体的に
社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」を法案第2条・教
育の目標としています。つまり、国家政策の積.極的な推進者として振る舞う
「資質」を育てることが教育の目的であるといことを規定したのです。

 第3に、法案は、教育勅語的な性格を持っています「教育を受ける者が、学
校生活を営む上で必要な規律を重んずる」(法案第6条学校教育)と国家が国民
の生き方まで規制しています。家庭教育も同様に、ことさらに「父母その他の
保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」(法案第10条)として、
教育行政の社会的責任をあいまいにしています。

 このように法案は「日本国憲法の精神にのっとり(法案前文)とはしている
ものの、「日本国憲法の理想の実現を教育の力にまつ」とした現行教育基本法
前文を削除し、憲法理念を実現する教育の役割をなくし、憲法理念に反する
「愛国心を持った、国策に積極的に協力する」人材の育成を求めています。そ
れは、憲法改悪を想定したものだからです。

(3)法案は、国の教育条件整備義務を削除した上で、父母・国民から教育権を奪
い国家に委ねるという重大な内容をはらんでいます。

 第1に「国民全体に対し直接に責任を負っておこなわれるべきもの」(第10
条)を削除し、法律を通して教育行政による教育介入の道筋をつくっていると
いうことです。教育基本法は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全
体に対し直接に責任を負って、行なわれるべきものである(第10条)とし、
教育行政の役割を「教育条件整備」に限定」しています。これは、戦前・戦中
の国家主義教育が侵略戦争のための国民動員の役割を担ったことからくる深刻
な反省の上に立って規定されたものです。しかし法案(第16条 教育行政)は
「不当な支配に服することなく」に続けて「この法律及び他の法律の定める、
ところによりおこなわれるべき」として、国民への直接責任から教育の政治介
入の道筋を「法律」を通してつくっているのです。教員についても同様に「全
体の奉仕者(第6条 学校教育)を削除した上で「自己の崇高な使命(法案第
9条)を求めていますが、改悪された法律に基づく教育が「崇高な使命」とし
て強制されることは明らかです。

 第2に、教育振興基本計画に基づき閣議決定で、教育内容・方法を含む教育
の全面支配をできるようにしていることです「教育に関する施策を総合的に策
定し、実施しなければならない」(法案第16条 教育行政)として、閣議決定
で「教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図る(法案第17条
 教育振興基本計画)ことができる道筋を規定しています。時々の政権が法律
によらずフリーハンドで「改悪教育基本法」をたてに教育を意のままにしよう
としているのです。

 第3に、国の「教育条件整備義務」を削除した上で、地方公共団体にも教育
振興の施策の策定や財政負担を担わせるものにしています。今でも少人数学級
実施のために国の責任を放棄し、自治体の努力に委ねているなど教育の機会均
等の原則に反する現状を「教育基本法に基づく施策とし地方と個人にしわよせ
しようとするものですここには小泉「構造改革」による「小さな政府」を実現
するねらいが如実に示されています。

(4)法案は、差別的な教育を持ち込むものになっています。法案は、9年の義務
教育年限を削除した上に「義務教育として行なわれる普通教育は、各個人の有
する能力をのばし」(法案第5条 義務教育)とするなど能力主義教育を制度的
に、すなわち小学校からの複線型の教育体系を想定しています。また、復古主
義的な特定の価値観をもとに男女共学規定を削除したことも問題です。

(5)今日、子どもと教育をめぐるさまざまな困難があり、その解決のために国民
的議論が求められています。とりわけ、貧困と格差が広がるなかで、高校生の
修学・就職問題や学力問題など深刻な事態が進行しています。その生徒たちに、
少人数学級を実施せず、教職員は減らし、学校に格差を付け、高校統廃合・高
校「多様化」再編を強行する、各家庭には自立自助を押しつけ行政責任を果た
さないなど、政府・文部科学省は、憲法・教育基本法に反する教育行政をすす
めてきました。教育基本法改悪案は、このような状況を解決するどころかいっ
そう困難にするものです。

 日高教は、憲法9条を守る多数世論と運動に合流し、父母・国民の教育要求
を実現するとりくみと結んで教育基本法改悪案の廃案をめざしてたたかうこと
を改めて表明するものです。


2006年04月28日
【談話】政府「教育基本法案」の国会提出について
民主党幹事長
鳩山由紀夫

 本日、「教育基本法案」が閣議決定され、国会に提出された。

 そもそも、国の根幹に関わる重要法案を通常国会の終盤になって提出してく
る政府の姿勢がまず問われる。なぜ、駆け込みで提出するのか、一部には自公
与党の党利党略も報道されており、国民不在の議論である。

 小泉総理は今国会冒頭の施政方針演説で、「教育基本法については、国民的
な議論を踏まえ、速やかな改正を目指し」取り組むと述べた。しかし、政府案
は、与党内の密室議論だけで決定されたものであり、国民的議論がなされたと
は到底言えない。「人づくり、国づくり」に関わる重要政策の基本である、教
育基本法については、国権の最高機関である国会で、十分な国民的議論を行う
べきである。

 さらに自公与党は、本来、衆議院文部科学委員会、または参議院文教科学委
員会で審議を行うべきであるにもかかわらず、連休明けにも衆議院に特別委員
会を設置するとも伝えられている。これは、常任委員会制度自体の否定であり、
憲政ルール無視も甚だしい。また、60年ぶりの教育基本法の改正を今国会の
会期が実質1ヶ月程度しか残されていないにもかかわらず、今国会中に成立させ
ようなどというのは、教育軽視、国民軽視も甚だしいと言わざるを得ない。将
来に禍根を残すことのないよう、くれぐれも拙速を避けるべきである。

 民主党は、学校現場、家庭、地域、社会などが抱える具体的な問題を直視し
て、国家百年の計にふさわしい議論を行い、現場の声に応えうる考えをとりま
とめ、政府案に対峙していく決意である。

以 上


<緊急アピール> 教育基本法「改正」法案の国会提出に対し、抗議の声をいます
ぐに

教育基本法「改正」案は、国家が教育に介入する時代への大転換

                         2006年4月30日
  「子どもたちを大切に…いまこそ生かそう教育基本法」全国ネットワーク  
                         事務局長  山田 功  

(1)国家が「教育に介入しよう」との意図が見え見え

 小泉内閣は4月28日、多くの反対の世論を無視して教育基本法改悪法案を
国会に提出しました。「改正」法案は、法律を根拠に「国を愛する態度」を強
制し、また「格差拡大社会」をささえ、いっそう教育に競争と能力主義を持ち
込む「教育振興基本計画」を政府が策定する権限を持つものとしています。ま
さに「子どものため」の教育から「国家のため」の教育へと大転換する改悪で
あり、命令と強制で教育を支配していく道筋がはっきりと見えてきました。

(2)国家が「教育の主体」に

 「改正」法案は、第2条に「教育の目標」を新設して、その第5項に「国と
郷土を愛する態度を養う」ことを明記しています。また、現行法の第10条
(教育行政)は教育行政の目標を「条件の整備確立」としていますが、「改正」
法案の第16条ではこれを削除し、「国は…教育に関する施策を総合的に策定
する」として、教育の内容や方法まで国家が勝手に決められるしくみにしてい
ます。「教育の水準維持や機会均等のため」といえば政府がなんでも決めて実
施できるような条文に変えてしまったのです。現行法を策定する際には、戦前
の教育体制への反省にたって、「教育は国民に対し直接責任を負って行われる
べきもの」と明記し、教育行政の目標を条件整備に限定したのです。「改正」
案はこのような戦前の教育への反省を全く無視するものです。

(3)子どもを大切にする教育をめざして「改悪反対」の一点で繋がろう

 「改正」案に対して、新聞各紙はいっせいに危惧の念を表明しています。
「愛国心の強制を恐れる」(「北海道新聞」「琉球新聞」など多数)、「内心
を縛る懸念はぬぐえない」(「愛媛新聞」など)、「卒業式の君が代強制で処
分しやすくするための法ではないはず」(「佐賀新聞」など)、「なぜそんな
に急ぐのか。改正で荒廃が解消するのか。党利党略に教育が利用されることに
ならないか」(「中国新聞」など)、「論議がもっと必要だ」(「徳島新聞」
など)等々です。教育の基本を定める法律であるがゆえに、「改正には国民的
な同意が必要である」「合意が形成されたとはとてもいえない」「慎重な上に
も慎重でなければならない」という主張が相次いでいます。「教育は法律で決
めていいことと悪いことがある」「愛することは、命じて出来るものではない」
と、強制により異論が許されなくなる社会への危惧が急速にひろがっています。
「国民が国に対してその責務を要請・注文する法律から、国が国民に対して命
令する法律への切り替え」を許してはならないと、主権者国民の立場に立ち、
子どもの成長発達を保障し、未来を大切にする教育の実現を求める声が大きく
発展しようとしています。

 子どもの権利条約は、子どもの意見表明権を含め「子どもを大切にする」国
際基準が明確にされています。教育に関する重要な問題は、子どもの意見を聴
く場や、市民や教職員、教育の専門家などが「国民自らの総意を表明する」場
も設けて論議されるべきです。ところが「改正」案は、与党の国会議員だけが
密室で「言葉合わせ」の作業をすすめ、「ガラス細工でつくったものだから、
継続審議にしている間に壊れてしまうかもしれない、7月いっぱいくらいの延
長国会で通したほうがよい」(片山虎之助・自民党参議院幹事長)というほど
に、政治的な思惑や妥協でつくられたものであり、教育の基本法にはまったく
値しないものです。

 いま教育の現場には政治のゆがみが大きく影を落とし、経済的な格差の拡大
が子どもの教育にも反映しています。憲法第9条の改悪の動きと連動して、戦
争賛美の教科書の登場や日の丸・君が代の強制がはげしくなっています。こうし
た時に、子どもの可能性をひきだし成長発達をうながすのではなく、上から刷
り込む教育の復活をねらった教育基本法改悪を今国会で強行成立させようとす
ることは断じて許せません。子どもたちを大切に思う一人ひとりや団体が「改
悪反対」の一点で繋がり、法案は廃案以外にないことを訴えましょう。私たち
はこのことを再度よびかけます。