教育基本法関連新聞報道・社説集
○『社会新報』主張 2006年4月26日付
○『信濃毎日新聞』2006年4月26日付「今日の視角」
○『信濃毎日新聞』社説 2006年4月27日付
○『しんぶん赤旗』主張 2006年4月29日付
○『公明新聞』主張 2006年5月2日付
○『毎日新聞』広島版 2006年5月3日付
○『毎日新聞』京都版 2006年5月3日付


『社会新報』主張 2006年4月26日付

「教基法改正案」 内心の自由侵す「国を愛する態度」


 教育基本法改正与党協議会は、13日に決定した同法改正案の「教育の目標」
の中に「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する…
態度を養う」を盛り込んだ。「愛国心」教育宣言だ。

 ところが、公明党などは「国には統治機構は含まれない」として、戦前の軍
国主義のようにはならないと主張している。しかし、これは気休めにもならな
い。

 確かに、パトリ(郷土)を愛するパトリオティズムがナショナリズムと重な
るとは限らない。また、戦前日本の動員体制は協調主義的・ムラ社会的であり、
その性格は多分に近代ナショナリズム以前的との指摘もある(ナショナリズム
と無縁とは言えないが)。つまり、問題はパトリオティズムがいいか悪いかで
はなく、どういう初期設定でそれが与えられているかなのだ。「血と土」では
なく民主主義をアイデンティティとする戦後ドイツの「憲法パトリオティズム」
という立場も存在してきたことにもっと注意が向けられていい。

 愛すべきパトリはあらかじめ何か実体としてそこにあるのではない。私たち
の記憶を形づくっているものごとや人間関係が、ネーション(国民国家)の枠
組みによって支えられているという現実は、戦前より戦後の方が明瞭かもしれ
ない。そこで力を発揮するのが教育にほかならない。「伝統や文化を尊重」す
るのだから、偏狭なナショナリズム教育にはならないという理屈には何の説得
力もない。

 さらに問題なのは、「態度を養う」ことが目標として掲げられたことだ。学
習指導要領に沿った態度をとるよう求めることは「児童生徒の内心にまで立ち
至って強制するものではない」との、「日の丸・君が代」を強制する時の理屈
を思い起こせば、ことの重大性は明らかだろう。戦争に心の中で反対していて
も、それを態度で示してはいけないのなら、だれも戦争に反対できない。こう
いう事態も、決して悪い想像として片付けられなくなってきた。

 東京都教育委員会は3月、教職員に「日の丸・君が代」を強制した03年の
「10・23通達(職務命令)」に続き、校長は「学習指導要領に基づき適正
に児童・生徒を指導することを、教職員に徹底する」との「3・13通達」を
出した。子どもたちの「内心の自由」に土足で踏み込むことを教職員に強制す
るものだ。ここで問題とされているのは文字通り「態度」だ。教基法改悪はこ
こに先取りされている。

『信濃毎日新聞』2006年4月26日付

今日の視角 愛すること

 教育基本法の「改変」で、「愛国心」が論議となっている。

 誰かを、何かを「愛する」ことは決して否定されるべきことではない。いや、
もっと積極的に言ってもいいことだろう。誰かを何かを「愛する」ことは、愛
する対象が誰であれ、何であれ、全く単純に素晴らしいことだと言える、と。

 しかし、当然ながら愛は強制されるべきものではない。「愛する」気持ちは
自然に芽生えるものであり、「…ねばらない」から生まれるものではないだろ
う。

 誰を、そして何を「愛する」かは、愛する主体、その人自身が決めることで
ある。

 Aという人に、Bという人を「愛さねばならない」「愛せよ」と誰が強制で
きるだろうか。BがいかにAを愛していたとしても、である。愛という状態か
ら、もっとも遠いところにあるのが、強制だと思う。

 友情や恋愛について考えれば、わかりやすい。「あの人を愛しなさい」と何
百回言われて外堀を埋められても、自分を偽り、無理に愛することはできない
だろう。

 むしろ、愛せよ、と強制されればされるほど、この先芽生えるかもしれない
好意さえ冷めていくケースも少なくない。

 そのひとの言動を信頼し、尊敬し、共感し、好意を抱き、それが愛に変わっ
ていく…。しばしば、それらの過程の幾つかは省略されたり、順序が逆になる
ことはあっても、それらのプロセスを経て、愛は確かなものになっていくはず
だ。

 それらを省略し、ただただ「愛せよ」と強制することにどんな意味があるの
だろう。その程度の「愛されかた」でいいというのなら別だが、国を愛するこ
とも人を愛することも、根っこにある水脈は同じだと思う。

 亡くなった劇作家の寺山修司さんは次のようにうたっている。

 マッチ擦るつかのま海に霧

 ふかし身捨つるほどの祖国

 はありや        

(落合 恵子)

『信濃毎日新聞』社説 2006年4月27日付

社説=教育基本法 改正を急ぐべきでない


 政府は教育基本法改正案を28日に閣議決定し、国会に提出する見込みだ。
与党は衆院に特別委員会を作り、今国会での成立を目指す。

 会期末まで2カ月足らずしかない。基本法は憲法と並ぶ大事な法律である。
短い時間で改正の是非を論ずるのは無理がある。拙速な論議は慎まねばならな
い。

 2003年3月に、中央教育審議会が「愛国心」や「公共心」を養うことな
どを盛り込み、改正を求める答申を出している。それを受けて、自民・公明の
検討会が会合を重ねて、改正案をまとめた。

 現行法が個人の価値観の尊重をうたうのに対し、改正法案は心のありようや
家庭の在り方に踏み込んでいる。そこにまず、違和感を覚える。

 法の精神をうたった「前文」で、「個人の尊厳」は残ったが、「普遍的にし
てしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす」という表現が削られた。代わりに
「公共の精神を尊び」「伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す」と、「公
共心」を明記した。

 教育の目的を定めた第一条では、「個人の価値をたっとび」「自主的精神に
充ちた」といった、「個」を尊重する表現が消えている。

 改正案には「教育の目標」が加わった。その中に「伝統と文化を尊重し、そ
れらをはぐぐんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社
会の平和と発展に寄与する態度」とする“愛国心条項”が盛り込まれた。

 新設の「家庭教育」の項目では、保護者に「生活のために必要な習慣」や
「自立心」を子どもに身に着けさせることを求める。さらに、国や地方公共団
体に、保護者への「学習の機会、情報の提供」などを要請する。家庭の在り方
に行政が踏み込むことになりかねない。

 基本法改正の背景には、子どもたちの問題への危機感がある。凶悪な少年犯
罪が目立ち、いじめ、不登校、虐待など問題は相次ぐ。公共のマナーを知らず、
学ぶ意欲も低下していることを憂う声は少なくない。

 だからといって、基本法を変えれば問題が解決するというものではない。子
どもたちの問題は、社会全体のありようを映し出したものだ。現場で1つひと
つ丁寧に対応していくしかない。

 「愛国心」や「公共心」は自然とはぐくまれるものだ。法で規定されること
で、子どもたちはより息苦しくなってしまうのではないか。

 改正論議は自公内のやりとりにとどまっている。本来なら、広く国民や教育
現場の声を踏まえるべき問題だ。改正を急いではいけない。

『しんぶん赤旗』主張 2006年4月29日付

教育基本法改定案 愛国心入れるよこしまな狙い


 小泉内閣が、今国会での成立をねらって、教育基本法改定案を閣議決定しま
した。

 教育基本法は、「日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示」(教育基本法の前
文)したものです。こんな大事な問題を、国会会期の残り三分の一という短い
期間で一気に通すというやり方はあまりにも乱暴です。

教育内容への政治の介入

 改定案の中身が重大です。現行の国民主権にたった国民の教育権を改定案は
否定して、国家による「教育権」におきかえています。

 第一〇条の改変です。現行法は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民
全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」(第一〇条一項)と
明記しています。改定案は、ここにある「国民全体に対し直接に責任を負って
行われるべきものである」を削除して、その代わりに、教育は「この法律及び
他の法律の定めるところにより行われるべきもの」などを加えています。

 現行法にある「国民全体に対し直接に責任を負って」というのは、教育が、
その時々の政治的官僚的支配のもとにおかれるのではなく、子ども・保護者・
住民など国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきだということです。
これは、時の政治的支配に従って、教え子たちを戦場に送った、戦前の戦争教
育の反省にたって、うちたてられた民主的原則です。

 改定案が、この民主的原則を削除して、“法律の定め”におきかえることは、
教育内容への行政の介入を法律で規定することになります。

 現行法は、民主的道徳についてもその基礎を提示しています。

 「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間」(前文)、「平和的な
国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤
労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民」(第一条)

 日本共産党は、民主的道徳を身につけるための教育を三十年も前から一貫し
て重視してきました。その内容を、「人間の生命、たがいの人格と権利を尊重
し、みんなのことを考える」「真実と正義を愛する心と、いっさいの暴力、う
そやごまかしを許さない勇気をもつ」「社会の生産をささえる勤労の重要な意
義を身につけ、勤労する人を尊敬する」など十項にまとめてきました。これら
は、憲法と先にあげた教育基本法の精神から出てきます。その十項目に「他国
を敵視したり、他民族をべっ視するのではなく、真の愛国心と諸民族友好の精
神をつちかう」ことをあげています。

 改定案は、教育の目標に、“国を愛する態度を養う”ことを盛り込みました
が、現行の教育基本法から当然導かれる内容をあえて書き込むところに、よこ
しまなねらいを感じないわけにはいきません。

憲法改悪と結びついて

 教育基本法の改定は、憲法九条の改定と連動しています。主権者として一人
ひとりの子どもの「人格の完成」を目的とする教育から、憲法改悪がめざす「海
外で戦争する国」にふさわしい人間を育て上げる教育への変質をはかろうとし
ています。こうしたねらいをもって、教育基本法に“国を愛する態度”が盛り
込まれれば、第一〇条改定とむすびついて、特定の政治的立場にたつ「愛国心」
を教育現場におしつけ、憲法に保障された内心の自由を侵害する重大な危険を
もたらすことになります。

 教育基本法改悪を許さないたたかいを広げていきましょう。

『公明新聞』主張 2006年5月2日付

21世紀拓く教育基本法に
国会提出、実りある論議を期待


時代の要請に応えて

 政府は28日、1947年の制定以来の全面見直しとなる教育基本法案を閣
議決定し国会提出した。

 戦後、「教育勅語」の影を払拭するように教育基本法が施行されてから約6
0年がたった。この間、高校や大学・短大への進学率は飛躍的に高まり、制定
当時には想定されていなかった児童虐待やニート(若年無業者)、フリーター
の増加、いじめ、校内暴力、不登校や学級崩壊の多発など教育現場、教育をめ
ぐる環境は激変している。時代の要請にこたえ、子どもたちの健やかな成長を
支える教育の実現へ、基本法の実効性を増す実りある論議を期待したい。

 提出された法案は、前文と18条で構成される。現行教育基本法の骨格を継
承し、「個人の尊厳」や「人格の完成」などの理念を堅持した上で、急速な時
代の変化や要請に対応して、「生涯学習の理念」「家庭学習」など8条文を新
たに盛り込んでいる。

 教育の目標では「生命の尊重」の考え方や、ニート、フリーターの増加を踏
まえ、教育と職業との関連などを反映させている。また、社会的に高い関心を
集めた「愛国心」の表記については、国家主義的な表現にならず、対象に政府
などの統治機構を含まない形で「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんでき
た我が国と郷土を愛する」とし、同時に「国際社会の平和と発展に寄与する態
度を養う」とする文言を盛り込んだ。このほか義務教育の年限規定は削除、
「教育の機会均等」では障害者への配慮を明記し、教育振興基本計画の策定な
ども規定している。

 教育改革は、教育の荒廃が叫ばれる中で、2000年に故・小渕首相が開催
した「教育改革国民会議」で国民的なテーマとなった。同会議はこの年12月
に行った報告で、経済のグローバル化などで社会の脆弱性が増幅する一方、教
育システムが時代の流れに取り残されていると指摘。人間性豊かな日本人と創
造性に富んだリーダーの育成、競い合いによる学校づくりなどを提言し、時代
にふさわしい教育基本法の制定を求めた。

 これを受けて教育基本法の在り方を審議した中央教育審議会(文部科学相の
諮問機関)は03年3月の答申で、「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい
日本人の育成」を目指し、「新しい『公共』を創造し、21世紀の国家・社会
の形成に主体的に参画する日本人」「日本の伝統・文化を基盤として国際社会
を生きる教養ある日本人」などの教育目標を示し、それらを実現するために教
育基本法の改正を求めた。この間、一部に復古的な動き、天皇主権下の教育の
規範であった「教育勅語」の内容を盛り込めないかといった動きもあり、議論
を整理して法案提出にこぎつけるまで3年を要した。

"戦前回帰"に反対

 公明党は見直しに際し、一貫して国家主義的、全体主義的、戦前回帰的な考
え方を持ち込むことに反対してきた。特に「国を愛する心」については慎重な
論議を求め、与党幹事長らによる協議会、実務者による検討会で70回を超え
る検討を行ってきた。こうした積み重ねの中から、21世紀にふさわしい基本
法がまとめられた。

 一方、最大野党の民主党は、基本法改正は憲法改正と同時に進めるという。
憲法改正が具体的な日程に上る環境にない中では、改正の先送りと言わざるを
得ない。その内実は、党内の意見をまとめられないということなのだろう。

『毎日新聞』広島版 2006年5月3日付

教育基本法改正:反対訴え、広教組が中区で署名活動 /広島


 県教職員組合(広教組)は2日、教育基本法改正反対を訴えるため、中区胡
町の福屋前で署名活動とチラシを配った=写真。

 広教祖の山今彰委員長は「教育基本法改正は憲法改正への踏み台になる。今
なぜ、改正する必要があるのか、政府に説明を求めなければいけない」と話し
た。チラシを受け取った中区舟入幸町、大浜明美さん(43)は、「愛国心を
強制するなんて戦時中に戻るようなので署名した」と話していた。【井上梢】

『毎日新聞』京都版 2006年5月3日付

教育基本法改正:府内在住の12人、反対のアピール /京都


 憲法記念日(3日)を前に、府内在住の大学教授や弁護士、宗教者ら12人
が2日、教育基本法の改正案に反対し、廃案を求めるアピール(3日付)を発
表した。

 アピールでは、政府の改革路線がもたらした今回の改正案が、子どもたちを、
人格ではなく人材すなわち労働者ととらえ、「一部のエリート以外の子どもた
ちに対する教育を切り捨てていく『教育改革』の延長線上にある」と指摘。さ
らに「愛国心の強制が教育にもたらす弊害は明らか」「日本国憲法第9条の
『改正』と相まって、日本を戦争することができる国家に変えようとするもの」
と指弾している。

 呼び掛け人には、哲学者の鶴見俊輔氏や狂言師の茂山千之丞さんらも名を連
ねた。事務局の大河原寿貴弁護士(京都弁護士会)は「海外に戦争をしにいく
子どもを作りやすくする法案には賛成できない。今後は賛同者を募る活動を行っ
ていきたい」と話した。【小川信】