TBSニュース 2006年5月3日付

教育基本法に「愛国心」、沖縄の思い


 教育の憲法と言われ、戦後の教育の柱となった教育基本法は改正案が国会に
提出されました。改正案には「愛国心」をめぐる文章が新たに盛り込まれまし
たが、この言葉が今、複雑な記憶を呼び起こしています。

 40年前に沖縄で作られた一冊の手帳に書かれているのは日本の憲法の条文
です。「アメリカの沖縄占領支配を日常行動でチェックしようとこれを作った」
と話す手帳を作った一人、仲宗根悟さんは沖縄復帰運動の中心人物でもありま
した。

 戦後、沖縄はアメリカの統治下に置かれ、日本の憲法は適用されませんでし
た。本土に渡るにはパスポートが必要で、軍に批判的な人は移動が禁止される
こともありました。アメリカ兵による死亡事故が無罪となることもたびたびあ
り、軍事優先政策で人々の人権は抑圧されていたのです。

 基本的人権が尊重される平和憲法への復帰。「憲法手帳」に書かれたことが
現実のものになると期待した仲宗根さんでしたが、その願いは叶いませんでし
た。「軍事的な脅威・リスクは沖縄に置いたまま。文句を言うと(政府は)ア
メ玉を持ってくる」と仲宗根さんは言います。

 「憲法手帳」の発行から40年。今月、「憲法手帳」の最新版が出版されま
した。そこに新たに書き加えられたテーマが「愛国心」の問題です。

 「愛国心の問題は人の心の中の問題。基本的な精神の自由、これは絶対じゃ
ないといけない」。新しい憲法手帳の作成に関わった琉球大学の高良鉄美教授
は戦前の沖縄にとって、「愛国心」の言葉は特別な意味があったと話します。

 「愛国心を見せることは差別されないこと。沖縄戦ではそれが強く現れてい
た」

 国内唯一の地上戦となった沖縄戦。20万人の死者のうち、半数の10万人
は一般の住民でした。戦闘に協力する一方、追い詰められた人々は自ら死を選
んだのです。

 戦前、国民学校の教師だった中村文子さんは皇民化教育を教え込み、教え子
を戦場に送ったことを今でも悔やんでいます。中村さんにとって、「愛国心」
の言葉は戦前の軍国教育を彷彿とさせます。

 「忠国愛国と教え込まれ、その通りに子供たちを教え、鉄血勤皇隊、女子学
徒隊になって命を落としたんですから」と話す中村さんは「国を愛する心」は
強制すべきではないと訴えます。

 「沖縄、郷里を愛さない人はいない。誰でもいい故郷にしたいという思いが
ある。これは強制されるのではなく自然にそう思う。文章化して強いることに
危機感を覚える」

 「国と郷土を愛する心」。そこから見える「愛国心」は複雑な記憶を呼び起
こしています。