『北日本新聞』社説 2006年5月1日付

富山大TLO/地域貢献の理念を形に


 富山大学は、大学での研究成果を民間企業などへの移転を橋渡しするTLO
(技術移転機関)を、十九年度にも開設する方向で検討を進めている。企業や
行政との連携を密にし、大学と地域産業の共存共栄につながる組織を目指して
ほしい。

 TLOとは、大学の研究成果を実用化したい企業を探して売り込むほか、学
内に埋もれる実用化可能な技術を発掘し、特許化の手続きなどを行う。企業か
ら得た研究成果の使用料は、発明者や大学にも還元される。

 国立大の法人化や平成十年の大学等技術移転促進法などを契機に、TLOは
これまで全国四十大学以上で設立されている。知的財産活用の機運は高まって
いるものの、大学の本来の役割である「知の創出拠点」として質の高い研究成
果を発信し、それを知財として権利化し活用する、という段階まで達している
大学はわずかだ。

 TLOの三分の二近くは赤字か、国や自治体の補助金に頼っている状態で、
実質的に黒字なのは、東大や電気通信大学などごく一部という。富山大TLO
には、民間とのライセンス契約にとどまらず、学内の研究成果を積極的に発掘
し、企業も含めた大学発のベンチャーを育てる強い組織を目指してもらいたい。

 さらに、富山大には大学への地域の期待、要望にしっかりと目を向けてほし
い。昨年十月の再編統合で生まれ変わり「地域への貢献」をテーマの一つに掲
げるが、地域には「大学は敷居が高い」というイメージが払しょくされていな
いようだ。TLOを地域と大学を結ぶ「仲介者」と位置付け、大学側から積極
的に地域へ出向くなどして、事業の成功につなげてほしい。

 TLOで産学連携の動きが強まることは喜ばしいが、広く社会に貢献する大
学の役割をおろそかにしてはならない。お金に結びつかなくても、長期的視点、
広い視野に立って力を注がなければならない研究は少なくない。産業化につな
がった技術開発も、地道な基礎研究の成果の上に成り立っている。

 基礎研究が停滞すれば、技術立国・日本を支えてきた大学の研究活動が根底
から揺らぎかねない。TLO設立を急ぐ一方で、目先の成果だけに左右されず、
研究者が安心して基礎研究に打ち込める環境づくりも必要だ。