『日刊工業新聞』2006年4月28日付

東大、産学連携推進本部が新体制−海外企業と連携も模索


 産学連携で常に耳目を集める東京大学で、産学連携推進本部の幹部が4月に
新体制になった。多彩な経歴を持つ山田興一理事が全学視点での管理を、藤田
隆史産学連携本部長(生産技術研究所教授)が執行を担う。 石川正俊教授(前
理事・副学長・本部長)が5年をかけて整備してきた基盤を受け継ぎつつ、東
大発ベンチャーからの寄付を東大基金の資金源とする長期的視点を加える。 国
際競争時代を見据え、海外企業との産学連携の方策も練っている。

 山田理事は住友化学に25年務め、東大の化学システム工学科教授に転身し、
信州大を経て地球環境産業技術研究機構(RITE)の理事・所長代行の後、
05年10月に東大理事に就いた。 藤田産学連携本部長は学部入学から生産研
まで東大一筋。 振動制御工学で特許出願は110件に上り、機械・デバイスメー
カーや建築会社との共同研究も多い。 東京大学TLOなども含め約70人の同
大産学連携スタッフを2人が率いる。

 法人化2年を経たことを踏まえ、山田理事は「大学の発明によるベンチャー
が社会を活性化し、将来は東大に寄付をしてもらう長期的な展望を基本方針と
する」と話す。 07年度に130億円という東大基金が計画されているが、今
後はさらに米国型の連携リターンを求める考えだ。

 足元の課題は全学意識がいまだ不十分なことだ。 「工学や医学では理解が進
んだが、大型の基本特許の可能性がある理学では特許マインドが育っていない」
と藤田本部長。 山田理事は「産学連携を理解する教員は文科系を含め全学40
00人の1割弱」という。 医工連携や環境・サステイナビリティーなど学際か
らの新しい発明が期待されるだけに、全学に理解され支持される産学連携を意
識する。 一方、05年に学生270人が参加した「アントレプレナー道場」も、
ベンチャーの担い手育成のために継続する。

 東大と外部の共同研究は現在、年1000件、発明届けは700件に上る。
山田理事は「次は海外に目を向けたい。 複数の海外企業とのコミュニケーショ
ンの場など、今年度中には形を固めたい」と考えている。