『沖縄タイムス』社説 2006年4月30日付

[教育基本法改正案]国民の疑問に応えよ


 教育は国家百年の大計である。にもかかわらず、その根幹を成し「教育の憲
法」といわれる教育基本法の改正をなぜそんなに急ごうとするのだろうか。

 三年間の与党検討会で自民、公明両党の教育基本法改正協議会は「愛国心」
を「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する
(略)…」にすることで合意した。それを受けて政府が二十八日、教育基本法
改正案を閣議決定したのである。

 与党は連休明けに衆議院に特別委員会を設けて審議入りを目指すという。

 自民党は公明党の意をくんで「愛国心」という表現を避けたが、それでも本
音の部分には「愛国心」の文言を盛り込みたいとする議員が多く、党内で駆け
引きが続いている。

 むろん国を愛する心は大事であり否定すべきものではない。ただ、本来、個
人の心情の問題であるはずの愛国心をなぜあえて法律に書き込もうとするのか
が腑に落ちないのである。

 法律で定めた場合、教師が子どもたちに「国の愛し方を教える」ことにつな
がる。評価の対象になれば画一的になり強制にも結びつくはずだ。それでは本
当の意味での愛国心が生まれるはずがない。

 心の問題を法律で定めることが憲法が保障する思想信条の自由に反するのは
言うまでもない。

 国が心を統制していくことを許してはならず、絶対に「ノー」だと叫び続け
なければならない。

 確かに教育現場ではいじめや不登校、学力低下などを理由に、教育が荒廃し
ているという言葉を耳にする。

 だが現行の教育基本法がいまの教育の状況をつくり出しているのかどうか検
証されたとはいえず、国民に対して説得力のある説明もなされていない。

 本当に改正が必要なのかどうか。あるとすればどう変えなければならないの
か。

 民主主義の原理と個人の自由を守るという憲法の理念に照らして、きちんと
分析していくことが求められよう。

 改正案を国会に提案した小泉内閣はまた、現行法のどこがどうおかしいのか―
国民に対し具体例を提示し、一緒に論議していかなければなるまい。

 国民主権という憲法の精神を踏まえた現基本法に比べ、国民に義務を強いる
“教育勅語”に似ているという批判にもきちんと応える責務があろう。

 国の将来にも深くかかわる問題だけに国会での審議は当然として国民への周
知も重要となる。拙速な改正は国を危うくするだけであり、国民に情報を開示
し慎重に論議すべきだ。