『西日本新聞』2006年4月29日付

教育基本法改正案国会提出 拙速審議の恐れ 論戦は1カ月程度か 


 政府は28日、教育基本法改正案を閣議決定して国会へ提出、戦後教育の根
幹を成した現行法の全面改正へ大きくかじを切った。ただ、6月18日の会期
末まで、残された時間は多くない。「教育の憲法」と位置付けられる重要法案
が、スケジュールをにらみつつ、極めて短期間で処理される恐れが強い。

 小泉純一郎首相はこの日、記者団に「会期内に成立させる。延長は考えてい
ない」と明言した。与党は5月の大型連休明けに、衆院に特別委員会を設置し
て審議入りを目指すが、首相の方針通りなら、1カ月ほどしか時間はない。与
党内で、小幅の延長論もささやかれるが、6月下旬以降、首相の訪米やサミッ
ト、自民党総裁選といった政治日程が控える中、民主党は来年の参院選を視野
に対決路線を先鋭化。教育の理念を定める法案に腰を据えて取り組める環境と
は言い難い。

 同法の改正論議は2000年、当時の森喜朗首相の私的諮問機関「教育改革
国民会議」が提言したのを機に始まった。当初から「復古色」を指摘する声が
強く、与党検討会が発足して以降、この3年間の法案協議は、教育現場の荒廃
や子どものモラル低下などの現実に向き合った本質的論議より、「愛国心」教
育をめぐる語句の表現問題に代表される駆け引き、折衷に終始したのが実情だ。

 その上、国会審議まで政局絡みとなれば、理念の深化は期待できず、教育現
場の混乱も招きかねない。小坂憲次文科相は28日、「国民の理解が得られる
よう議論していきたい」と述べた。言葉通り、成立を急ぎ、将来に禍根を残す
ことは避けなければならない。 (東京報道部・下崎千加)

■首相が会期延長を否定

 小泉純一郎首相は28日夜、教育基本法改正案の今国会成立に向けた会期延
長に関し「延長は考えていない」と否定した。公明党の東順治国対委員長との
会談で「(延長は)6月に判断する」と述べたことについて、官邸で記者団か
ら確認を求められたのに対し答えた。

■教育理念条項別に明記 現行法を全面改正

 政府が28日、閣議決定した教育基本法改正案は、前文と18条構成で、現
行法の前文と11条を全面改正する内容だ。第2条「教育の目標」で改正案の
柱となる理念を条項別に具体的に明記したのが特徴。また、少子高齢化など制
定から約60年間の時代の変化に対応し「生涯学習の理念」など新条項を加え
た。

 前文は現行法にあった「個性」の文字が姿を消し、「公共の精神」「人間性」
などに変わった。

 現行法2条「教育の方針」を改正案は「教育の目標」に変更。現行法は1項
だけで表現も「自発的精神を養い」など抽象的だったが、「教育の目標」では
「豊かな情操と道徳心」「健やかな身体」「正義と責任」などを列挙。「公共
の精神」も明記され、「愛国心」条項を設けた。

 文部科学省は「戦後教育に欠けていた『知・徳・体』を重視した」と説明す
る。

 現行法5条の「男女共学」は「時代的役割を終えた」(文科省)として削除。
少子高齢社会を踏まえ、3条に「生涯学習の理念」、11条に「幼児期の教育」
などを新設。13条の「学校、家庭、地域住民等の相互の連携協力」で「教育
におけるそれぞれの役割と責任」の自覚を求めた。

 16条の「教育行政」は教育について、現行法で「国民全体に対し直接に責
任を負って行われる」としたのを、「この法律及び他の法律の定めるところに
より行われる」と打ち出した。

 教育関連の法改正などについて現行法11条で「必要がある場合には」とし
ていたのを、改正案18条は「必要な法令が制定されなければならない」と表
現を強めた。