『神戸新聞』2006年4月28日付

研究費の確保厳しく 法人化で外部資金頼みに


 神戸大学の特許出願で、工学部教授が実験データを捏造(ねつぞう)してい
たことが二十七日、明らかになった。教授はこの特許出願などで、独立行政法
人から助成金を獲得。国立大学では、二年前の法人化後、国からの交付金が減っ
たことから、補助金など「外部資金」の獲得に向け研究者間の競争が激化して
いる。神戸大の同僚教授らからは「捏造は論外だが、研究環境が厳しいのは現
実」との声も上がっている。

 国立大は二〇〇四年春の法人化で、運営が大学の自助努力に委ねられるよう
になり、国からの運営費交付金が減額。教授らに配分される研究費も減った。

 神戸大では外部資金を重視し、企業との共同研究や研究機関からの助成獲得
に力を入れてきた。

 今回、実験データの捏造が発覚した大前伸夫教授(59)と同じ工学部の助
教授は、「法人化後、外部資金がないと研究が回らず、学内での競争は激化し
た。資金獲得では特許の有無も関係してくる」とこぼす。

 神大によると、法人化を機に、教授ら個人で手続きしていた特許出願が、大
学で一括して処理するようになった。年間約百件の出願があり、このうち工学
部は約五割を占めるという。今回の大前教授の研究には「新エネルギー・産業
技術総合開発機構(NEDO)」と企業が、既に一年分の研究費約四千五百万
円を助成していた。

 工学部の助教授は「外部資金の獲得実績は、教授昇進など学内評価にも響く。
どの研究者も、のどから手が出るほど欲しい。捏造はあってはならないことで、
研究者として信用が傷付くのは避けられない」と話す。

 この日、会見した眞山滋志副学長は「倫理的に問題がある。誠に遺憾」と陳
謝した。

 工学部の男子学生(20)は「問題になっている教授のことは直接知らない
が、事実だとしたら研究者、指導者として恥ずかしい」と話していた。