|
トップへ戻る | 以前の記事は、こちらの更新記事履歴 |
『文部科学教育通信』2006年4月24日号 No.146 教育ななめ読み 93 「国立高専」 教育評論家 梨戸 茂史 改革の名の下、厳しい財政事情は高等専門学校にも襲ってきたようだ。先日 の新聞記事(三月一六日付け朝日)では、財務省が増税しないで財政健全化を 達成しようとすれば、国立大学の授業料はほぼ四倍にしなければならないし、 医療費の負担は1・六倍、年金の支給開始年齢は六七歳まで引き上げざるを得 ないという「試算」をまとめたそうだ。これは増税やむなしの流れを作る理論 と環境づくり。一方、国立大学などは「総人件費削減」にどう取り組むかその 対応におおわらわ。それでも大きな大学は民間資金の導入や科研費などの外部 収入を増やしたり、内部のやりくりも効くからまだまし。規模の小さなところ はそうはいかない。 三月上旬に開催された国立の高等専門学校(高専)の事務部長会議で「対応 方針」を検討、その後法人(高専機構)の役員会で決定した。高専といっても 一般には知らない人の方が多い。「ロボコン」をやっている学校といえばなん となく分かる方もいる。高度経済成長期に中堅技術者養成で出発した工学系の 五年制の高等教育機関だ。国立は五五校、公立が五校、私立が三校の合計六三 校(二〇〇四年度)。その国立高専が一つの「独立行政法人」となっている。 一大学が一法人となっている国立大学と違うところ。教育がメインで外部収入 は心細い。もっぱら節約中心で相当厳しい。そのため各高専は二〇〇六年度か ら二名の人員削減を実施することにしていた。そこにこの総人件費抑制の五% がかかる。もっとも効率化係数分を含んでよいらしいからさらなる単純な上乗 せではなさそうだ。 「対応方針」では涙ぐましい「工夫」の数々が検討された。まず、四月から 導入される「継続雇用制度」で従来の勤務者の給与と再雇用された教職員の給 与の差額を計上する。その額、およそ教員で二三〇万円と事務職員の三一〇万 円に人数を掛けたものとなる。これが各高専で教員一名、事務・技術職員二〜 三名(四学科までの学校は二名、五学科のところは三名ときめ細かい)。全体 でおおむね一二億七千万円超。それに「秘策」は同一県内の事務部の一元化。 同じ県内に高専が複数あるところがある。例えば三重県では鈴鹿工業高専と鳥 羽商船高専だ。事務部の三課体制を各校二課とし、その上事務部長ポストがひ とつ減ってくる。その代わり連絡調整役の「企画課長」を創設。つまり部長を 課長にして節約。さらに統合で係長などの職員を八名減らす分も加える。 目を外に転じると世の中では国立がんセンターなどが独立行政法人化されよ うとしている。独法化なるもの、経営効率重視で採算性に重きを置く。さすれ ば先端医療の研究開発など採算の取れない分野は切り捨てられる恐れがある。 国立がんセンター総長の柿添先生は、進行がんなどの難しい手術ではその時間 が長くなり人手や費用がはるかにかかる、診療と研究を一本化して進めるため 病理などのバックアップ体制を手厚くしなければならないこと、全国的に不足 している抗ガン剤治療や放射線医療の専門家養成の役割もあるなど採算性の低 い部門の存続を心配している。医療には効率性になじまない側面があると言う。 確かに「医は仁術」という言葉もありましたな。何でも「効率化」の名のもと に切り捨てが行われる。政府は医療にお金を回さず早く亡くなれば医療費も減 らせるとは思っていないでしょうね? 財務省の試算ではないが、災害時に設備不足で自衛隊が出動できなかったり、 治安の悪化も考えられる。大学の陰に隠れて目立たないが高専はますます先細 りだ。次は小規模大学の番ですぞ。 |