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『中国新聞』社説 2006年4月21日付

行革法案の衆院通過 公の役割忘れてないか


 「官から民へ」を旗印にしてきた小泉内閣。構造改革の「総決算」と位置づ
ける行政改革推進法案など関連五法案がきのう、衆院を通過し、参院に送られ
た。

 だが、行革は何のために進めるのか、将来どうなるのか、これまでの議論で
全体像が明らかになったとは思えない。「簡素で効率的な政府」はどのような
姿なのか、参院ではもっと突っ込んだ論戦をしてほしい。

 組織改革の柱となる「国家公務員の純減」については、今後五年間で5%減
らすという数値目標が設定された。霞が関官僚の抵抗が最も強い部分である。
ただ、数を減らせば、それでいいというものでもないだろう。早期退職勧奨の
慣行をなくさねば、天下りにつながる。治安の悪化で、警察など「安全」にか
かわる公務員は、逆に増やす必要性も出てきた。

 関連法案では、公共サービスの担い手を競争入札で決める「市場化テスト」
に、積極論がある一方で、質が果たして向上するのかという異論も強い。「国
民の立場に立って行う」という文言を入れたことで、民主党も賛成に回った。
専門性の高い美術館や博物館など文化的な分野については、なお議論の余地が
あるだろう。

 ここに来て、実態が不明確とされる各省庁の随意契約(随契)の在り方も浮
かび上がった。環境省では、会計法上は一般入札で契約されるべき五百万円以
上の事業(二〇〇〇―〇四年)のうち、九割が随契だった。競争原理が働かな
い随契では、高値になる恐れが強い。小池百合子環境相は「随契を半減させる
勢いで見直す」構えだが、今さらの感もある。

 環境省だけではない。各省庁が〇五年度に所管する独立行政法人、公益法人
と結んだ主な随契だけでも総額五千三百七十六億円に上る。このうち9%は、
別の民間企業に丸投げされていた。これらの法人にはOBの天下りも目立ち、
不明朗な関係の温床となった可能性もある。防衛施設庁などで明るみに出た
「官製談合」を防ぐためにも、実態を詳細に調査し、見直しに早急に取り組む
べきだ。

 市場原理に依拠した「改革」で格差が広がったことは、共同通信などの世論
調査でも多くの国民が指摘している。それだけに、社会保障など公共サービス
の重要性は一段と高まってきた。行政組織が簡素化されても、安心して暮らせ
る仕組みを保証する、本来の役割を忘れてはならない。