新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『朝日新聞』2006年4月17日付 夕刊

「本すべて収集」は命綱
国会図書館の独立行政法人化 藤本由香里 編集者・評論家


 ここ数年、国立国会図書館が使いやすくなった。

 請求した本もすぐに出てくるし、最初に利用者登録しておけば、雑誌に載っ
た論文なども、インターネットを通じた請求によって、全国どこへでもコピー
を郵送してくれる。

 その国立国会図書館の独立行政法人化が国会改革案の議論の俎上に上ってい
る。

 これについては、国立国会図書館自身からも、また日本図書館協会からも、
それぞれ懸念や反対声明が出されているが、日頃出版に携わり、また、マンガ
などの研究も行っている身としても、やはり、独立法人化には大きな危惧を感
じざるを得ない。

 まず、国立博物館や国立美術館が先行例として挙げられているが、はたして
入場料の取れる美術館や博物館と国会図書館を同列に扱っていいものだろうか。

 また、国会図書館には、立法そして行政・司法に奉仕するという文字通りの
「国会」図書館としての役割の他に、「国民のための国立中央図書館」として
の役割もある。だが、議員たちがこれを「副業」と呼ぶのを聞くと、この役割
が軽視されているような気がしてしかたがない。たとえば「国民に対しても、
貸し出しや利用時間でサービスの向上を図る余地は十分ある」などという発言
には、この人は国会図書館と普通の図書館の違いさえわかっていないのではな
いか、と思わせられるのである。

 基本的に貸し出しを行わない国会図書館の重要な役割とは、「納本制度」を
裏づけとして、国の文化財としての「出版物を網羅的に収集・保存」し、「日
本国内のすべての刊行物」の総合目録および雑誌記事索引を作る、というとこ
ろにある。そしてそれが、全国の図書館の拠り所になっているのだ。

 「日本国内のすべての刊行物」が基本的に国会図書館にはある、ということ
の安心感と意義は大きい。だが、独立法人化されたとき、この「網羅」を支え
る納本制度はいったいどうなるのだろうか。

 事実、先に独立法人化された国立公文書館では、各行政省庁から行政文書が
集まりにくくなっているという(00年まで平均1万7千冊だったものが、0
2年には8千弱、04年で5千強)。現在、国会図書館法では、納本された本
に対し、請求があれば定価の半額までを支払うことになっているが、これが
「予算」によって縛られることになれば、本が集めにくくなるのは火を見るよ
り明らかだろう。そして、いったん集めそこなった本を後から収集するために
は、とんでもない手間がかかる。つまり一度崩れてしまったら元には戻らない
ということである。

 たとえば私の研究分野でもあるマンガ。これは普通の図書館には入らないの
で散逸しやすく、「コンテンツ振興」がいわれながらも、「現代マンガ図書館」
は個人の努力で支えられ、大阪の「国際児童文学館」も存続が懸念されるなど、
アーカイブ政策に関しては、ほぼ無策に等しい。

 その中で国会図書館は、最後の拠り所とも言える。「コンテンツ」を重視す
るならば、それらを積み重ね、体系的に整理する「アーカイブ」もまた重視さ
れなければならない。それがお金に換算できない国の底力を作る。そのことを
まず、認識してほしいと思うのである。