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『デーリー東北新聞』時評 2006年4月14日付 科学技術基本計画 人材養成の戦略がない 優れた人材の養成と社会、国民への成果還元を基本姿勢に、本年度から五年 間で総額二十五兆円の政府資金を研究投資に充てる第三期科学技術基本計画が スタートした。 総合科学技術会議(議長・小泉純一郎首相)が練り上げた計画を政府が決定 した。科学技術立国を目指す政府はこの十年、経済事情の悪化の中、第一期十 七兆円、第二期二十四兆円を目標に科学技術研究開発に積極的に投資してきた。 第三期はさらに、これまでの科学的発見や技術的な発明を融合発展させて新 たな社会的価値や経済的価値を生み出すイノベーションを実現しようという意 気込みだ。 第二期に掲げた「知の創造」「国際競争力」「安全で質の高い生活」の三目 標を引き継ぎ、第三期は、より具体的、個別的な政策目標を掲げ、科学技術の 限界突破、環境と経済の両立など六つの大目標と、地球温暖化とエネルギー問 題の克服、ユビキタスネット社会の実現など十二の中目標を定めた。 国家・社会的な政策課題に対応する研究開発では、第二期から引き続いて戦 略的重点化を行い、ライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、情報通信、 環境の重点推進四分野に優先的に投資し、さらに国が存立するための基盤的課 題であるエネルギー技術、交通網などの社会基盤、宇宙などのフロンティア、 ものづくり技術という推進四分野にも重点化して資金配分する。 この八分野については、さらに分野別推進戦略を策定し、今後五年間に政府 が取り組むべき重要な課題を抽出、そのうち特に集中投資が必要な六十二課題 については「戦略重点科学技術」として課題ごとに研究開発項目と成果目標、 推進役の担当官庁を明記した。 例えば二〇一〇年までに、がん基礎研究の新成果を治療に応用する体制を整 備し実用化するとか、国産のH2Aロケット打ち上げを二十機、成功率90% 以上にし、衛星の独自打ち上げ能力を確立するとか、日本列島周辺の大規模地 震の発生予測を高度化して被害を軽減するとかいった具合だ。 本年度予算によると、科学技術関係の総額三兆六千億円のうち大学の運営交 付金や基礎研究に一兆四千億円、政策対応型研究開発八分野には一兆八千億円 (うち戦略重点科学技術に約三千億円)が配分された。 しかし人材養成、若手研究者の支援、地域科学振興などへは三千億円にとど まる。 「モノから人へ」「組織より個人を優遇」とうたっていながら、第三期基本 計画には、長期を見据えた人材養成計画やアジア各国との研究交流など戦略的、 具体的な政策提案が全くないのには失望する。科学技術イノベーションで国力、 経済力を強化しようというだけの基本計画に見える。 次世代の研究人材を生み出す国立大学法人の運営交付金が年々減っていく現 状をどう考えているのだろうか。国民は科学技術バブルを求めてはいない。 |