新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『新潟日報』社説 2006年4月14日付

教育基本法 改正の理念が見えない


 「米百俵」の故事を引き合いに出すまでもなく、教育を語ることはあるべき
未来への熱い思いを論じることである。

 ところが、与党の協議会が決めた教育基本法改正案からは将来展望や改正の
理念が感じ取れない。「愛国心」をどう表現するかに腐心し、大本の論議が置
き去りにされた結果である。

 前文と十八条からなる基本法改正案が今国会に提出されるのは確実だ。ずさ
んさと拙速を絵に描いたような改正案をそのまま認めるわけにはいかない。

 自民、公明両党による基本法改正論議は、二〇〇三年の中央教育審議会(中
教審)答申を受けて本格化した。

 答申は「郷土や国を愛する心」などの理念を基本法に付け加えるよう求めた。
深刻化するいじめや不登校、凶悪犯罪の低年齢化などに有効に対処するには、
基本法の改正が不可欠だと強調した。

 随分乱暴な論理である。いじめや不登校と基本法の間にどのような因果関係
があるのか全く説明されていない。最近問題となっている学力低下も基本法の
せいだというのだろうか。

 改正案は第二条「教育の目標」を大きく変更した以外は、第三条に「生涯教
育」を付け加えたのが目立つぐらいだ。

 端的にいえば「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土
を愛する態度を養う」の文言を盛り込むことが、改正の目的であろう。

 大都市では就学援助を受けている児童・生徒が20%を超える。一方で高額の
納付金が必要な私立一貫校の人気はうなぎ上りだ。教育格差の拡大は、放置で
きない水準に達している。

 基本法の改正より抜本的な教育改革こそ急がれる。その際の柱は「未来を信
じることが出来る教育の確立」である。猫の目のように変わる文部科学省の方
針は、不安をかき立てるだけでしかない。

 与党と文科省に問いたい。伝統と文化を軽んじてきたのは誰か。郷土を愛す
る態度を喪失させたものは何か。胸に手を当てて考えてほしい。

 本県をはじめ地方には、大地に根を張り地域を愛する多くの人々がいる。
「愛する態度」を法律で押し付けるのは余計なおせっかいである。

 さらにいえば、義務教育までは地方が責任を負っている。基本法で「国」な
どを強調することは、市町村の教育に独自性を、という方針にも反している。

 今国会の会期は六月十八日までだ。小泉純一郎首相は会期延長はないと明言
している。基本法改正案の審議も拙速でこと足れりということなのか。