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『日刊工業新聞』社説 2006年4月12日付

社説/科学技術の成果還元−研究者と社会つなぐ人材育成


 科学技術基本計画が第3期に入った。第1、第2期の10年間は税収が伸び
悩む中で、政府の科学技術関係予算は増え続け、ほかの政策経費に対して高い
伸びを確保した。 第3期も第1期の17兆円、第2期の24兆円を超える25
兆円を予定している。

 産業界の一部で金をかけた割には目にみえる成果が上がっていないのではな
いか、といった批判も出ている。 このため第3期計画では「社会・国民に支持
され、成果を還元する科学技術」を基本姿勢の1番目に挙げた。 2番目は「人
材育成と競争的環境の重視〜モノから人へ」である。

 科学技術研究は人類社会の発展に貢献してこそ優れた成果といえるのだから、
この基本姿勢は当然だ。 ただし問題は時間である。 科学技術研究は成果が出
るまでに時間がかかり、その成果が社会の役に立つようになるまでには、さら
に長い時間を要することが少なくない。

 第1、第2期の10年は日本経済の低迷が続いていたことや国立大学の独立
法人化もあり、大学でも”すぐに役に立つ“研究が重要視される傾向が強かっ
た。 本来、多様であるべき学問の府が一つの方向に硬直化しつつあるようにみ
える。 第3期計画は政策的課題対応型研究開発について選択と集中を徹底する
一方で、「自由な発想に基づく基礎研究は多様性を確保しつつ一定の資源を確
保して着実に推進」と、基礎研究も重視する方針を打ち出した。

 これも将来の日本の国際競争力を考えれば、当然である。 したがって「自由
で多様な研究」と「社会・国民に支持され、成果を還元する」を両立するには、
その間をつなぐ仕組みと人が重要になる。 両者をうまくつなぐことができれば、
優れた研究成果が社会の役に立つまでの時間を短縮することができる。

 仕組みはこの10年で大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)などの整
備が進んだ。 第3期計画でもこれらの組織を「きわめて重要な存在」と位置づ
け、TLOの成功例の水平展開など組織の活性化と連携強化を掲げている。 問
題は基本姿勢で強調している人材である。

 第3期計画は「研究者・技術者と社会との間のコミュニケーションを促進す
る役割をになう人材」の養成を進め「職業としても活躍できる場を創出・拡大
する」としている。 研究者の研究内容と産業や社会のニーズの両方を理解し、
「研究開発を効果的に市場価値に結実させる人材が質・量ともに求められてい
る」との認識を示した。

 「人材育成」は研究者だけでなく、つなぎの人材でもしっかり実行すること
が、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」の実現に欠かせない。