新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『朝日新聞』2006年4月11日付

 博物館統合、展示への影響じわり


 ◆8館→4館、埼玉県の場合

 埼玉県立の博物館・美術館がこの春、8館から4館に統合された。経費節減
などを目指す「県立博物館施設再編整備計画」が本格的に動き出したためだ。
自治体の赤字を理由に博物館の閉鎖が増えるなか、埼玉の現状を追った。
(宮代英一)

 ◆地域的に偏り、勉強会ピンチも

 「ようこそいらっしゃいました」。午前9時、並んだ学芸員が入館者に向かっ
て一斉に頭を下げる。さいたま市にある県立歴史と民俗の博物館では、今月か
らデパートなどでおなじみの朝の出迎えを始めた。

 「博物館をめぐる状況は極めて厳しい。お客様への感謝と、私たちの意識改
革も目指しています」と高橋一夫館長。この日は客寄せに、学芸員自らが獅子
舞を踊る光景も見られた。

 同館の前身は埼玉県立博物館だ。しかし、民俗展示や芸能講演などを行って
きた県立民俗文化センターが先月閉所され、それを統合して再スタートした。

 このほか、今月1日付で、県立さきたま資料館と県立歴史資料館は2施設1
組織に統合され「県立史跡の博物館」に、県立自然史博物館とさいたま川の博
物館は同じく2施設1組織の「県立自然と川の博物館」に再編された。

 また県立埋蔵文化財センターは、史跡の博物館付設の収蔵施設に。県立近代
美術館を含め、同県の博物館・美術館は4館となった。

 統合の最大のメリットは経費節減だろう。同県によれば、管理費など年約3
億円が削減できる。また、「館あたりの学芸員数が増えるため、以前より質の
高いサービスが提供できる」と、同県生涯学習文化財課社会教育施設整備担当
は話す。

 実際、さきたま史跡の博物館(旧さきたま資料館)のように、従来はできな
かった年数回のテーマ展示を始めたところもある。

 再編整備計画では、史跡・自然など、博物館の専門化・統合化も進められた。
例えば民俗文化センターなどに分散していた民俗部門は、すべて、歴史と民俗
の博物館に集約された。

 「でも、館のスペースには限りがある。民俗文化センターのように、芸能講
演専用の舞台もない」と、ある博物館関係者はこぼす。

 事実、4月の新規開館にあたり、同館では、民俗展示室を新装・拡張したが、
逆に近世〜近現代の展示は縮小せざるを得なかった。

 地域的な偏りという問題もある。再編で県中央の嵐山町の県立嵐山史跡の博
物館(旧県立歴史資料館)は県北の行田市にある、さきたま史跡の博物館の実
質上の分館に。さらに、08年度までに地元自治体への移管を目指しているが、
存続を不安視する向きもある。

 旧歴史資料館は、県内の中世研究の中心的存在だったうえに、勉強会などの
普及活動でも知られただけに、「私たちに行田市まで通えというのか」(地元
住民)という声も。

 緊縮財政時代を背景に、この1月には、青森市の稽古館(市歴史民俗展示館)
が閉館するなど、全国で続く博物館の消滅。その象徴のような埼玉県のケース。
かつてない状況下で、博物館と学芸員は住民に、どんな還元ができるのだろう
か。力量が問われている。