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『読売新聞』2006年4月4日付

ハローワーク、刑務所、気象庁・・・国の人員削減難航


◆省庁抵抗、骨抜きの懸念

 行政改革推進法案の柱である国家公務員の総人件費削減が、各省庁の激しい
抵抗に遭っている。同法案は「5年間で国家公務員数の5%以上の純減」を目
指すが、各省庁には「総論賛成、各論反対」の姿勢が目立つ。小泉首相は、3
日に実質審議入りした衆院行政改革特別委員会で、「国の役割を厳しく見直し、
簡素で効率的な政府を作らなければいけない」と強調したが、このままでは骨
抜きになりかねない情勢だ。(黒川茂樹)

 ■*なぜ削減?

 国家公務員の純減は、官のスリム化を進め、同時に民間の活力を最大限引き
出すのが狙いだ。少子高齢化や膨れあがる国の借金などから、効率的な政府の
実現が課題となっている。

 人件費削減のうち、給与水準については人事院を中心に見直しが進んでいる。
削減の個別具体策を検討するために首相の委嘱を受けて設置された「行政減量・
効率化有識者会議」(座長・飯田亮セコム最高顧問)は、各省庁の人員削減に
狙いを定めた。

 国際的にみると、日本の公務員数は多くないのも事実だ。総務省によると、
人口1000人当たりの日本の公務員数(国と地方の合計)は約36人で、ア
メリカ(約81人)やフランス(約96人)の半分以下という。

 財務省の試算によると、5%純減を中心にした人件費削減策の効果は、5年
間で800億円程度で、約80兆円の国の一般会計総額と比較すると額は小さ
い。

 しかし、厳しいリストラに耐えてきた民間企業に比べると、役所の業務効率
化は甘い。地方の出先機関の統廃合や、業務の民間委託などを含めた抜本的な
業務見直しを迫り、意識改革につなげる狙いもある。

 ■*聖域なし

 有識者会議は、国家公務員のうち、一般の行政機関の職員約33万2000
人に絞って議論を進めている。06年度からの5年間で5%以上、業務拡大な
どに伴う増員分を勘案しても、差し引き純減とする目標だ。

 さらに、農林水産省が行っている農林水産業に関する統計調査(約5000
人)や、北海道庁との二重行政が指摘される北海道開発局(約6300人)な
ど15項目を重点分野に定め、具体的な削減目標の提示を求めた。個々の事業
や分野を狙い撃ちして、突破口にするのが狙いだ。

 ただし、行革推進法案全体では、一般の行政機関の職員だけでなく、すでに
民営化が決まっている日本郵政公社職員を除く約68万4000人の国家公務
員のすべてを純減対象としている。自衛官や裁判官なども含まれており、聖域
はない。

 さらに、国立大学などの独立行政法人や特殊法人、日本銀行などの認可法人
などにも、国にならって5年間で5%以上を基本にした人件費削減を求めてい
る。地方自治体も、5年間で4・6%以上の地方公務員数の純減や給与を民間
企業並みに引き下げることを要請されている。

 ■*「ゼロ回答」

 しかし、お手本を示すべき中央省庁の抵抗は予想以上に強く、削減への取り
組みは極めて鈍い。

 有識者会議が今年1月から各省庁に行っている検討要請に対しては、「引き
続き検討する」(業務の効率化を求められた農水省の食糧管理業務)や「国家
公務員が行うべき業務であり、困難だ」(民間委託、または非公務員型の独立
行政法人化を求められた国土交通省の自動車登録業務)など、事実上の「ゼロ
回答」が相次いだ。

 具体的な削減数が示された分野は、厚生労働省による国立高度専門医療セン
ターの独立行政法人化の最大約5600人や、財務省の国有財産管理の181
人など、一部にとどまった。

 このため、有識者会議は3月30日の中間とりまとめで、各省庁の取り組み
を「極めて不十分だ」と批判した。飯田座長は「各省庁が自ら責任を持って取
り組むべき課題なのに、極めていい加減な省庁もある」と憤りを隠さない。

 一方、削減対象になった職員の雇用をどう確保するかという問題も未解決だ。
有識者会議の事務局である政府の「行政改革推進事務局」は、削減対象の職員
の他省庁への配置転換を促す雇用調整本部の設立案も示したが、雇用確保に関
する各省庁の不安は強く、反発の原因になっている。

 ただ、同事務局が行った意見募集には、すでに約2000の電子メールが寄
せられ、国家公務員の削減に対する国民の関心は高い。

 政府は今後、消費税率引き上げを含めた歳出・歳入一体改革を進めたい考え
だが、政府が自ら身を切る姿勢を示せないままでは、痛みを伴う増税に国民の
理解を得るのは難しい。