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『福島民報』論説 2006年3月31日付

大学が地域に「元気」を


 県内の大学の動きが活発だ。国公立大は法人化に伴い、生き残りをかけて、
さまざまな取り組みをしようとしている。私立大も駅前にキャンパスを出すな
ど、これまでになかった現象が起きている。中でも、東邦銀行と連携協力協定
を結んだ福島大の今後に注目したい。

 福島大は平成16年4月1日に国立大学法人としてのスタートを切ってから、
あす1日でちょうど2年となる。3年目となる新年度の目玉というべき事業が
東邦銀行との連携協力協定だろう。中身はベンチャー企業の創業や大学の技術
を活用した商品開発、さらには地域を担う人材の育成など多岐に及んでいる。

 福島大はこれまで、いろいろな形で産学官と連携し、地域貢献もしてきた。
今回は金融の専門知識を持った東邦銀行と単独で組むことが大きな特徴で、銀
行側からベンチャー企業の創業を目指す学生へのアドバイスや技術活用のため
の情報提供、就職支援などを受ける。首都圏在住の経済学部OB、OGで組織
する東京信陵会の東京・渋谷の事務所内には東京連絡事務所を設置し、研究成
果を中央に売り込む考えだ。

 大学と銀行の組み合わせは一見、異質だが、学術研究機関が持つ「頭脳」と、
金融機関が持つ「ノウハウ」「資金」などが、うまくかみ合えば、大きな成果
が上がる可能性がある。福島大に求められるのは共生システム理工学類を中心
に実用化に向けた商品の開発であり、大学を売り込むための、これまで以上に
柔軟な発想だろう。 法人化によって国からの補助金は厳しくなり、研究費な
どをまかなうための新しい財源が必要となっている。東邦銀行との連携協力で、
企業などに受け入れられる商品が生まれれば、外部からの新たな資金が入って
くる。外部資金は次の商品を生む研究費などに有効活用することができ、プラ
スの連鎖も図られる。一方で、商品開発などが実現しなければ、連携は掛け声
だけに終わってしまう恐れもある。

 県立福島医大と県立会津大はあす1日に公立大学法人に移行する。どちらも
県立大学で、県の一般財源からの交付金で大学運営をしているが、県が超緊縮
財政を余儀なくされている中、今後、全面的に県に依存していける保証はない。
福島大と同様に、知恵を出し合い、外部資金を導入することなどが重要となっ
てくる。

 私立では福島学院大が福島市本町の空きビルに駅前キャンパスを開館し、4
月から約300人の学生が学ぶ。学生たちの姿が空洞化した中心市街地に活気
を取り戻す起爆剤に―と、地元商店街も食事や買い物などで学生たちを支援し
ていく。こちらは地域、それも街のど真ん中の地域と大学との連携で、相乗効
果が上がってほしいと願う。

 大学は学術研究の場だけというイメージは、もうだいぶ前からなくなってい
る。産学官と手を結び、地域に出て、持てる「力」を発揮する。法人化した大
学は力がなければ、存続にまでかかわるのではないか。逆に力をつけて前へ進
めば、大学も地域も大きく変わる。大学が先進的な民間企業並みの戦略とパワー
を持って運営し、大学内部はもちろん、地域にも「元気」を与えてくれること
を期待している。(半野 秀一)