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                弁護団声明             

                         2006年3月30日
           国立情報学研究所非常勤職員雇い止め事件原告弁護団

1.平成18年3月24日は、非常勤公務員労働者の権利闘争史上、銘記さる
べき日となるであろう。この日、東京地方裁判所民事第36部は、非常勤公務
員に対する再任用拒否(雇い止め)を権利濫用として認めず、原告の労働契約
上の地位を確認する画期的な判決を下した。

 非常勤公務員は、国・地方を問わず、いまや、正規公務員と同じく恒常的な
業務を担う職場に必要不可欠な存在となっている。それにもかかわらず、勤務
期間が有期(日々雇用ないしは1年)というだけで正当な理由もないままに雇
い止め(解雇)され、紙屑のように捨てられてきた。正規公務員が公務員法に
よって身分が守られているのに対し、非常勤公務員は身分保障が認められず、
不安定だといわれる民間の期限付き労働者(パート・派遣など)と比べても更
に脆弱な立場におかれてきた。数多くの非常勤公務員が、その理由を告げられ
ることなく雇い止めされ、泣き寝入りを強いられてきた。

 しかし、そのような中でも「理不尽な更新拒否はどうしても許せない」とい
う労働者が、数は少ないものの全国で闘いに立ち上がり裁判に訴えてきた。と
ころが、裁判所は「非常勤公務員も公法上の任用関係であるから、使用する者
に広範な裁量権がある」として悉くその訴えを退け、本人、支援者、弁護団は
悔しい思いを味わいつづけてきた。それでも、「理不尽なことは理不尽である
から、たとえ裁判で敗けても敗けても勝つまで闘おう」との合言葉のもとに闘
いは続いてきた。本件はその一つである。

 そして、今回、わが国ではじめての地位確認の判決を勝ちとることができた。
長年の闘いの積み重ねが、ついに、本判決をして厚かった法の壁の一角を崩さ
せた。本判決は、不安定な地位に苦しみ不安を抱いている非常勤公務員労働者
に対し大きな励ましを与えるとともに、本件に続く闘いの道標となるものであ
る。


2.本件の判決理由は、次のとおり、きわめて明晰である。

 判決は、まず第1に、権利濫用禁止法理は「一般的に妥当する法理」であり、
信義則の法理とともに公法上の法律関係にも適用される「普遍的法原理」であ
ると判示する。そして、任期付公務員についても、「特段の事情が認められる
場合」には権利濫用禁止法理ないし信義則の法理が妥当し、任命権者は任用更
新を拒絶できないと判示する。そして、判決は、特段の事情が認められる場合
として3つの場合をあげる。すなわち、(1)任命権者が、期間満了後の任用
継続を確約ないし保障するなど任用継続を期待させる行為をしたにもかかわら
ず、任用更新をしない理由に合理性を欠く場合、(2)任命権者が不当・違法
な目的をもって任用更新を拒絶するなど、その裁量権の範囲をこえまたはその
濫用があった場合、(3)その他、任期付きで任用された公務員に対する任用
更新の拒絶が著しく正義に反し社会通念上是認しえない場合である。

 そして、判決は第2に、以上を踏まえて本件の具体的な事実関係を検討し、
上記特段の事情が認められる場合に該当するとして任用更新拒絶は信義則に反
し許されないと判示した。注目すべきは、判決の次の記述である。

 「思うに、非常勤職員といっても、任用更新の機会の度に更新の途を選ぶに
当たっては、その職場に対する愛着というものがあるはずであり、それは更新
を重ねるごとに増していくことも稀ではないところである。任命権者としては、
そのような愛着を職場での資源として取り入れ、もってその活性化に資するよ
う心がけることが、とりわけ日本の職場において重要であって、それは民間の
企業社会であろうと公法上の任用関係であろうと変わらないものと思われる。
また、非常勤職員に対する任用更新の当否ないし担当業務の外注化の当否につ
いては方針もあろうが、任用を打ち切られた職員にとっては、明日からの生活
があるのであって、道具を取り替えるのとは訳が違うのである。これを本件に
ついて見るに、国情研においては、原告○○ら非常勤職員に対して冷淡に過ぎ
たのではないかと感じられるところである。永年勤めた職員に対して任用を打
ち切るのであれば、適正な手続きを践み、相応の礼を尽くすべきものと思料す
る次第である。」

 非常勤公務員の思いを受け止めた、まさに「人間の血が通った」判決である。


3.本件判決における上記第1の「任用更新を拒絶できない特段の事情」の判
断は、今後の同種事案において、大いに活用できると思われる。また第2の判
断は、非常勤公務労働者に大きな励ましを与えるものである。

 いずれの点からも本件は画期的な判決である。この判決を次の闘いへの道標
とし、本件の闘いを更に進め、東京高裁でも引き続き勝訴するために全力を尽
くすとともに、各地で取り組まれている非常勤公務員の権利闘争が連携しあっ
て法の厚い壁を崩し新たな地平を切り開くことを期待するものである。    
                                 以上