新首都圏ネットワーク
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『読売新聞』関西版 2006年3月12日付

中小企業と大学が連携
機動性と研究成果生かす


 技術力はあるものの、研究開発に十分な費用や人材を割けない中小企業と、
豊富な研究成果を実用化するのに不慣れな大学との距離が、急速に縮まってい
る。従来の産学連携では、大学と大企業の共同研究が主流だった。最近は、大
学の「事業の種(シーズ)」と中小企業の「機動性」という長所がうまく結び
つき、提携が本格化している。

(高橋健太郎)

学生の教育の場にも

 大阪府の太田房江知事は昨年12月の記者会見で、世界トップレベルの研究
で知られる東北大・金属材料研究所(仙台市)の研究拠点の誘致に成功したこ
とを明らかにした。

 2006年度に、大阪府立大(大阪府堺市)に研究施設、モノづくりの支援
施設「クリエイション・コア東大阪」(東大阪市)に産学連携の窓口を、それ
ぞれ設ける。東大阪の中小企業などと連携する予定で、太田知事は「都市圏域
を越えた産学連携の拠点作りは、大きなものではたぶん初めて」と胸を張った。

 府企画室によると、大阪東部には金属工業だけで約5400社が集積する。
町工場の技術力を生かして、東北大などの研究成果を商品開発につなげる計画
だ。今年1月には、金属材料研究所の井上明久所長らが府立大などを視察した。

 中小企業との連携の意義について、井上所長は「大学の使命は『知の創造』
で、ありきたりの技術開発では駄目。失敗を避けがちな大企業より、チャレン
ジ精神のある中小企業との方が組みやすい」という。さらに「(04年度の)
独立行政法人化を機に、国立大学もチャレンジを求められるようになった」と、
中小企業との関係が深まった背景を説明する。

 「5〜10年前まで、大企業に研究費を出してもらう共同研究が一般的だっ
た」(私立大教授)という産学連携のあり方は、大きく様変わりしている。

 経済産業省が昨年6月に発表した産学連携などの調査結果によると、産学連
携について「うまくいっている」と回答した大企業は6・4%で、中小企業の
22・7%を大きく下回った。この違いについて、日本総合研究所は「自社に
研究開発の能力がある大企業と比べ、中小企業は産学連携で研究テーマを絞り、
具体的な成果を期待する場合が多い」とみる。

 中小企業を共同研究の相手としてだけでなく、学生の教育の場としても活用
する大学も現れた。近畿大(東大阪市)は04年度、大学院に、院生を東大阪
などの企業に派遣して研究開発にあたらせる「東大阪モノづくり専攻」を設置
した。院生は高い技術力を習得でき、企業は研究開発の人材を確保できるのが
利点だ。

 担当する沖幸男教授は「東大阪の企業が持つ高い技術力の継承や、研究成果
を社会に役立てることが目的」と説明する。メーカーで2年間、印刷用樹脂版
などの研究開発に取り組んだ神応寺厚志さん(24)は「大学院とは異なり、
実用的な技術や知識を学べた」と振り返る。

 産学連携で新ビジネスを開拓する中小企業も増えている。バイオベンチャー
のバーネット・インターナショナル(大阪市)は、大阪府立大との共同開発で、
「おから」から機能成分「ソイファン」を取り出すことに成功し、04年に化
粧品などとして商品化した。大企業での勤務経験もある東信治社長は「中小企
業は失敗も多いが、意思決定などのスピードは大企業よりはるかに上だ」と、
中小企業の強みを強調している。


経済部から

 私の母校で産学連携に力を入れているK教授は、実にエネルギッシュな人で
す。優秀な技術やアイデアを持つベンチャー企業の経営者に直接アタックし、
研究会などのプロジェクトに参加してもらうことなど、日常茶飯事です。学業
の道に進まず、民間企業の営業マンになっても、出世したかもしれません。こ
うした学者の熱意に応えない手はありません。中小企業なら、トップの決断次
第です。たとえ共同研究などですぐに結果が出なくても、技術者らが知的刺激
を受けるだけで、社業にはプラスではないでしょうか。

(上)
eメール:venture@yomiuri.com