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『産経新聞』2006年3月8日付

防衛医大を独法化 民間手法で研究拡大 月内にも方針


 防衛庁が防衛医大(埼玉県所沢市)と医大病院(同)の独立行政法人化を検
討していることが七日、分かった。国が大学病院を運営する“お役所仕事”の
弊害で最先端医療から取り残され、看護師不足も深刻になっているためだ。民
間の経営手法を取り入れ、テロ対処療法など独自性のある研究に踏み出すねら
いもあるが、国が医官を養成する意味合いが薄れるとの慎重論も出ている。

 防衛医大などの独法化は昨秋、公務員総人件費改革の一環として浮上し、防
衛庁は今月中にも方向性を出す。独法化を決めれば、平成十九年度予算概算要
求に関連経費を盛り込み、来年の通常国会に防衛医大法人法(仮称)を提出す
る。

 独法化が必要な理由として、(1)予算の制約などで最新鋭の医療機器が導
入できず、最先端の研究から遅れている(2)運営が硬直的で、国務への専念
義務の障害もあり、産官学の研究が停滞している(3)医大病院の看護師が不
足しているが、公務員削減の制約で増員は困難−などが挙げられる。

 平成十五年の国立大学法人法の制定で、防衛医大を除く国立大医学部は一斉
に国家公務員法などの規制がなくなり、競争原理の導入により教育と研究機能
が活性化された。産官学共同プロジェクトなどの研究交流も活発になったが、
唯一の国が運営する医学部になった防衛医大はこうした流れから取り残された。

 防衛医大を卒業した自衛隊医官の早期退職の急増も問題化している。最大の
理由は「自衛隊では水虫治療が大半」とも揶揄(やゆ)される臨床経験の不足
だ。任官後の防衛医大での研修が充実していないことも、早期退職に拍車をか
けているとの指摘もある。

 医大病院の看護師不足も深刻。昨年十月現在で看護師は約四百人、入院患者
は約七百人のため、一人の看護師で一・七五人の患者を扱っている。他の大学
病院では一人で一・四人程度の患者を担当するのが一般的だ。

 独法化しても全国に十六ある自衛隊病院については、武力攻撃の際に医療の
“駐屯地”として戦略的に使用することを想定しており、現状のまま維持する。

 医大などの独法化には教授を中心に積極論が多い一方で、事務職員の抵抗は
強い。「国家が医官を育てるとの理念を捨てれば、幹部自衛官を育てる防衛大
学校も独法でいいことになる」(制服組幹部)との“そもそも論”も立ちはだ
かる。

 防衛庁によると、米国は軍の中で医官を養成しており、欧州では医官候補に
採用した上で大学などで医学を学ばせるケースが多い。独法化すれば国家防衛
をめぐる日本の特殊性がまた一つ増えることになるが、「形式よりも、質の高
い医官の養成が第一だ」(防衛庁幹部)との積極論もある。