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『日本経済新聞』社説 2006年2月21日付

市場化テストで官業の開放を加速せよ


 政府が公共サービス改革法案(通称・市場化テスト法案)を国会に出した。
成立後は、役人がやるのが当たり前だと考えられていた仕事に、国民や住民へ
のサービス意識が高い民間企業が参入できるようになる。事業の低コスト化も
期待できる。官の仕事は真に民にできないものだけに厳選すべきである。国や
地方自治体はこの大原則をよく自覚して業務の民間開放を加速させてほしい。

 市場化テストは国や自治体、また独立行政法人や特殊法人などが独占してい
る公共サービスの担い手として、民と官のどちらがふさわしいかを入札で競い、
効率的で質の高い条件を出した方に業務を委ねる仕組みだ。米国の一部の州な
どで定着しており、コスト削減とサービス向上の一石二鳥を実現させている。

 政府はすでに社会保険庁などの一部業務に市場化テストを試行し、民間が参
入した例もある。だがその範囲は極めて限定的だ。官業に広く網をかけて入札
対象に聖域をつくらないためにも法制定は不可欠だった。新法を所管する内閣
府は社保庁のほか、国の守備範囲では公共職業安定所(ハローワーク)、統計
調査、刑務所などの関連業務を第一弾の入札対象にする計画だ。自治体関連で
は戸籍謄本、住民票などの交付を中心とする窓口業務を想定している。

 各府省庁の担当閣僚や自治体の首長、独立行政法人の理事長ら官業のトップ
は自らが所管する仕事を聖域視せず第2、第3弾の入札対象を選び手続きを迅
速に進めてほしい。

 なかでも市役所などの窓口業務は地域住民との接点であり、待ち時間の長短
などにサービスの差が如実に表れる。市町村合併で、ともすれば不便を強いら
れる住民へのサービスを向上させる手段として市場化テストを使わない手はな
い。首長に指導力があれば民間に譲れる仕事はさらに広がる。これこそが住民
に選ばれる自治体行政への第一歩だろう。

 法案は民間が落札した場合、それまで対象業務に従事していた国家公務員が
その企業の従業員として円滑に移れる仕組みも定めている。その後、公務員に
復職しても退職金に不利益が出ないようにするものだ。仕事に精通している公
務員を落札企業がそのまま雇用する例も増えるとみられる。その観点からは、
この仕組みは評価できる。

 半面、この「元公務員」が仕事に熱心でない場合などは、落札企業の経営者
が柔軟に人事上の処遇をできるようにすることも欠かせない。内閣府は法施行
までに、こうした手続きについても明確にすべきだ。