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『福島民報』日曜論壇 2006年2月19日付

大学法人化の思想


 一昨年4月から福島大学を含む全国の国立大学は一斉に「国立大学法人」へ
と移行し、管理運営システムも大きく再編された。本年4月より2つの県立大
学も法人化されるということで最後の総仕上げがなされているであろう。この
法人化にかかわる報道で気になることがある。それは無造作に「独立行政法人
化」という用語によって報道されていることと、しばしば当事者自身において
もその用語が使用されていることである。

 私のようにまず旧「国立大学」学長として選出され、その時期に「法人化」
の最終決定(国立大学協会総会)に加わった者からして、この「独立行政法人
化」という用語にはとても抵抗を感じるし、不正確な使用法となっていると思
う。その点に関しては、たとえば当時の文部科学大臣であった遠山敦子氏の著
書では「平成9年…国立大学の特性を考慮しない『行政改革』的な独立行政法
人化に対して強い懸念」がなされ「数多ある国の機関の中で唯一国立大学だけ、
そして政府部内で文部科学省だけが独立行政法人制度の無条件適用に異を唱え
つづけ」「『独立行政法人』制度と異なる『国立大学法人』制度の創設が提唱」
されたと紹介している。

 私も一国立大学の長として、当時の「法人化」最終決定の際には、反対もし
くは保留の気持ちを持ちながらも、他方でこの独立行政法人とは区別される国
立大学法人への提案がなされているという認識をふまえ、今後の国立大学の発
展への希望を託しつつ総会に臨んでいた。

 すなわち今回の国立大学法人化については、ある人は「民営化への一里塚だ」
と主張しているが、その点については私は全く異なる立場にたっており、「国
が国立大学のあり方やその財源措置に責任をもちつつ、国立大学の自主性・自
律性を高めるため」の法人化であるととらえている。

 この国立大学法人化路線に対して、その法人化路線の本来の本質からして
「独立行政法人化」なる言葉を回避し、安易に「国立大学法人化」という言葉
に置き換えることに反対する立場もあるが、あの移行過程の私の体験・実感か
らして、むしろこの「国立大学法人化」という思想の可能性に賭けたいという
思いがある。

 したがって、私は国立大学法人化を安易に独立行政法人化と同一視する立場
とは一線を画している。この「国立大学の自主性・自律性を高める」法人化と
いう立場から、私は福島大学における法人化の基本原則について検討すること
を全学に提起し、その検討結果をふまえて『福島大学の法人化について(最終
報告)』が法人化直前の平成16年3月5日付けで完成している。この報告書
は、福島大学において〈大学法人化の思想〉を具現化させたものとして私は重
視したい。

 大学法人化の思想として重視したいのは、大学という組織体が真にその目標
に沿うものとして機能するためにも学問研究・教育研究の特性を生かしつつ、
その組織体における民主主義を充実・発展させるということである。そして大
学と社会との相互交流を積極的に位置づけつつ大学の研究・教育の成果を社会
に還元させることである。

 その際の大学の民主主義と、大学と社会の相互交流を保障するものこそ、教
授会自治を継承発展させた大学全体の自治であろう。(臼井嘉一・福島大学長)