新首都圏ネットワーク
  トップへ戻る 以前の記事は、こちらの更新記事履歴

『読売新聞』2006年2月19日付

広がる知財戦略支援
公的機関や大学取り組み強化


 海外での模倣品の増加などに伴い、特許を始めとした知的財産(知財)の重
要性がここ数年、格段に増している。特に、独自の技術力とアイデアが生命線
の中小、ベンチャー企業は、知財戦略の成否が経営の将来を左右しかねない。
そこで、公的機関や大学は、人材育成など企業の知財戦略の支援を本格化して
いる。
(高橋健太郎)

専門大学院や人材派遣

 「特許がなければ価格競争に巻き込まれ、会社は消滅していただろう」。商
品包装用の紙箱などを打ち抜く「抜き型」の加工システムを製造するレザック
(大阪府八尾市)の柳本忠二社長は、知財戦略の重要性を強調する。かつては
熟練の職人技に頼っていたが、今はコンピューター利用設計(CAD)を用い
た技術力で勝負する。特許や実用新案登録など保有する知財は約100件とい
い、中小企業としては異例の多さだ。

 ただ、知財を重視するレザックでさえ、2年前に特許紛争の訴訟に巻き込ま
れた。金属板の曲げ加工が争点で、原告側が加工技術そのものを問題視し、自
社保有の特許侵害を訴えたのに対し、レザックは、CAD用の加工ソフトの特
許を取得済みだと主張した。判決ではレザックの主張が認められたが、「特許
の有効範囲など、訴訟で初めてわかったことも多い」という。

 パソコンのソフトウエアや、音楽、映像などコンテンツ(情報内容)のビジ
ネスが拡大するにつれて、非製造業でも知財戦略の重みが増している。ソフト
ウエア会社などでつくる日本IT特許組合(東京都)の梶山桂理事長は、「中
小のソフト会社が、大企業から特許侵害の警告を受けるケースが多発している。
だが、特許そのものが成立しておらず、『けん制』とみられる例も多く、我々
も知財への取り組みを強化することが必要だ」と危機感を募らせる。

 知財の重要性が急速に増していることから、政府は2003年3月に知的財
産戦略本部を設置し、05年6月に「知的財産推進計画2005」をまとめた。
計画には、05年度から10年間で、弁理士など知財の専門家を現在の倍の1
2万人に増やすことや、特許審査の迅速化などを盛り込んだ。

 これを受けて、人材育成に乗り出す大学が相次いでいる。帝塚山大(奈良市)
は01年度、大学院の博士課程前期に「知的財産法制コース」を設けた。大阪
工業大(大阪市)は、03年度に国内初の知的財産学部を設置し、05年度に
は、知財の専門職大学院を開設した。弁理士や法律事務所スタッフなど、プロ
を育てるのが狙いだ。東京理科大(東京都)も05年度、同様の専門職大学院
を設けた。

 公的支援も少しずつ充実してきた。近畿経済産業局は05年度、知財の専門
家を目指す学生を中小企業に派遣する「実践的インターンシップ」を開始した。
レザックも、大工大の大学院生2人を受け入れ、グループ会社の菱屋(八尾市)
で研修を行っている。

 大工大知的財産学部の石井正学部長は「国内に約6万人いる知財専門家のう
ち、半分の約3万人は企業に所属している。ただ、大半は大企業で、中小企業
には知財のプロがほとんどいない」と説明する。そのうえで、「関西を代表す
る産業のバイオ、製薬は特許がものを言う産業。知財戦略次第で、大きく業績
が伸びる可能性を秘めている」と期待を寄せている。

経済部から
 知人が趣味で始めたナイフづくりがプロの領域に達し、アメリカの雑誌で紹
介されたりしています。分厚い鋼板から削りだして刃を付け、ハンドル部分に
はシカの角などの滑り止めを付けるのが基本です。精巧な加工技術もさること
ながら、彼の評価が海外でも高い理由は、知的財産である大胆なデザインにあ
ります。技術、品質を重視する日本では、デザインやアイデアは軽視されがち
です。でも、高品質の製品が大量生産できるようになった今、付加価値は、デ
ザインなどの独創性に求められるようになっています。