新首都圏ネットワーク
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06年度国立大学関連予算案批判
国立大学法人予算の実態と文科省の“偽装”

2006年2月12日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局 評論員πλ・βω

 本事務局は、昨年12月20日以来、一連の国立大学関連予算資料を公表し、適
宜コメントを付してきた。12月24日に「行政改革推進法案」の国会上程が閣議
決定され、国立大学法人にも5%の人件費削減が強制される可能性が出てきたこ
とから、情勢分析と情報発信は当面、この法案の国会上程の阻止に重点を置い
たものとなるが、これまでに指摘してきたように、政府が目論む「行政改革推
進」の方向が、すでに進行している国立大学法人の人件費の破綻と軌を一にす
るものである。したがって、06年度国立大学関連予算案の批判もまた積極的に
展開していかなければならない。

 今回は、その皮切りとして、文科省作成の資料「平成18年度国立大学法人予
算の内示概要」を元に、来年度の国立大学関連予算案の問題点を指摘しながら、
文科省の説明が“偽装”に近いものであることを暴露する。なお、本文中の数
字は億円単位で四捨五入しているため末尾の数字が一致しない場合があること
をお断りしておく。

1. 昨年を上回る運営費交付金の大幅減額

 最初に収支のアウトラインを確認しておきたい。まず収入であるが、06年度
の運営費交付金の予定額の総額(1兆2215億円)は、05年度予算(1兆2317億円)
と比べて103 億円(0.8%)の減額となっていることが目を引く。06年度文部科
学省概算要求・要望は05年度予算に54億円の上積みをめざしたが、それはなら
ず、逆に、減額は04年度から05年度にかけての減額98億円を上回るものとなっ
た。

 これを国立大学法人、共同利用機関法人に分けてみると、国立大学法人(87
法人)の合計は、1兆1388億円から1兆1287億円へと、111億円の減額となった。
05年度比では99.0%である。共同利用機関法人(4法人)の合計は、928億円か
ら936億円へと、8億円の増額となった。05年度比は100.9%である。他の収入で
は、授業料収入は3567億円から3566億円へとわずかに減少している。また、雑
収入は120億円から130億円へと10億円増加するとされている。以上、運営費交
付金、授業料収入、雑収入の3項目で計93億円もの減額である。

 一方、支出の方は、特別教育研究経費は786億円から800億円へと14億円増額、
退職手当・特殊要因は1383億円から1431億円へと48億円の増額となっている。
これらの支出項目は運営費交付金として措置されるため、見かけ上運営費交付
金の総額は膨らんでいるものの、大学の財政的な裁量が拡大するわけではない。

 だが、文科省の「内示概要」は、06年度の教育研究経費等は05年度の1兆
3336億円から1兆3254億円へと、82億円の減額で済むかのように記述している。
しかし、これは本事務局が昨年12月21日に指摘したように、病院収入が6062億
円から6145億円(83億円増、101.4%)へと増加した場合に限って成り立つフィ
クションともいうべき数値である。病院の「経営改善」がこれ以下にとどまる
場合、各法人は、必然的に運営費交付金にふくまれる「病院診察関係相当分」
以上の額を捻出しなければならない。そうした努力の末、各大学はようやく前
年度(1兆3336億円)より82億円少ない基盤的経費(教育研究経費等)1兆3254
億円を手にできるのである。

2. “偽装”の疑いがある文科省「内示概要」

 以上のように、虚構の収入改善(病院の「経営改善」)を前提とすることに
より事業費総額にはほとんど変化がないような数字合わせを行い、運営費交付
金の減額の影響を極力小さく見せようとする国立大学法人の財政制度設計の欺
瞞性は昨年と変わるところがない。

 これに加えて、今年度の文科省説明資料(「平成18年度国立大学法人予算予
定額の主な内容」)には、さらに関係者をミスリードしかねないレトリックが
多用されている。

 運営費交付金が04年度→05年度の減額(△98億円)以上に減額(△103億円)
されたことはすでに見た。ところが、「主な内容」のIには、「運営費交付金総
額の確保」という目を疑うような表現が踊っており、続いて三つの注記(※)
が付されている。

 注記の第一では、「平成18年度予定額における当然減は、△179億円(効率化
額96億円、病院経営改善額83億円)」と述べられる。財政当局者の恣意に基づ
く「効率化係数」「病院経営改善係数」を起点として算出された「効率化額」
「病院経営改善額」を「当然減」と呼ぶことを本事務局は不当だと考えるが、
ここではこのことを指摘するにとどめる。

 さて、問題はつづく注記の第二である。ここには、「効率化額の約8割に相当
する額(77億円)について増額。(特別教育研究経費14億円増、その他の教育
研究経費等63 億円増)」とある。ここで「増額」分は、なぜか前段で「当然減」
と述べられた△179億円とではなく、「効率化額」とだけ比較される。小さいも
のと比較することにより、少しでも対象物を大きく見せたいという配慮なのだ
ろうか。77億円は179億円の43.0%である。この問題は、「増額」とされる77億
円の内訳からも指摘することができる。63億円ある「その他の教育研究等」は、
「特殊要因経費」「新規組織整備措等」「施設面積調整額」等の雑多な項目の
合計であるが、ここには「教育研究医療体制整備」という大学病院関係予定額
も含まれているのである。「増額」分の77億円を「病院経営改善額」を除外し
た額と比較することの不当性ははっきりしているといえよう。

 つづく注記の第三には、またしても「病院経営改善額」が登場する。曰く、
「病院経営改善額については、附属病院収入の増収を予定するものであり、診
療事業の規模縮減にはつながらない」。要するに、大学の努力により病院の経
営改善に成功した場合のみ診療事業の規模は維持されると言っているにすぎな
い。しかも、これは運営費交付金とは無関係の記述である。だが、うっかりす
ると、表題の「運営費交付金総額の確保」と第三の注記は関係があると錯覚す
る者がいるかもしれない。

 以上、レトリックと呼ぶにはあまりにお粗末なものばかりだが、事務的なミ
スではなく、あえてこのような記述をとったのであれば、「主な内容」のIは
その表題と合わせて、読者をミスリードする意図をもった“偽装”だといわざ
るをえない。

つづくIIとIIIについては、事実に誤りはない。しかし、IIはすでにIの中で述
べられたことを取り出しただけであるし、さらに、IIIはIIの内容の一部である。
いずれもI の注記程度とすべき項目であるが、これらを取り出して「主な内容」
として列記しているところに、いかに06年度予算に見るべき成果がないかが表
されている。しかも、IIIでは「病院関連特別支援経費」が新規に計上されたと
あり、その合計額は43億円とされるが、IIを見ると、「特別支援事業」の経費
は14億円の増に過ぎない。つまり、差し引き29億円分の事業費が減額ないし廃
止されているのである。Iほどではないとはいえ、IIIもやはり針小棒大、誇大
広告の謗りを免れない。

【補】運営費交付金の増減と特別教育研究経費

 法人毎の金額では、増額は29法人(昨年度比100.0%のお茶女大を含む)、減
額は58 法人である(表1参照)。再編統合などによって法人数が変動している
ので比較が難しいが、昨年度もほぼ同数の法人が増・減に分かれた。

 ただし、運営費交付金の総額が前年度の99.03%となったことを考慮するなら、
この「平均」を上回る比率の交付金を獲得したのは41法人、下回ったのは46法
人ということになる(図1参照)。

 一方、特別教育研究経費の法人毎の増減は、増額は50法人、減額は37法人と
なる(図2参照)。その上、まず法人数で見るならば、特別教育研究経費は、運
営費交付金が「平均」を上回った大学に厚く配分されている傾向がある(表2参
)。運営費交付金が「平均」以上の41法人のうち、33法人で特別教育研究経
費が増額されているのに対して、減額は8法人にとどまる。一方、運営費交付金
が「平均」未満となった46法人では、特別教育研究経費が増額されたのは17法
人に過ぎず、残りの29法人で減額となっている。

 ここで気になるのは、運営費交付金の増額が特別教育研究経費の増額と連動
しているといえるかどうかである。試みに、運営費交付金が「平均」以上とな
る「増額」の法人グループの運営費交付金を合計すると5505億円となる。これ
らの法人の特別教育研究経費の合計額は195億円、運営費交付金に対する特別教
育研究経費の割合は3.5%となる。一方、運営費交付金が「平均」に達しない
「減額」の法人グループの合計額は、それぞれ5773億円、209億円である。こち
らの運営費交付金に対する特別教育研究経費の割合は3.6%であり、ほとんど変
わりはない。ところが後者のグループには、特別教育研究経費の査定額が上位
一位の東京大学(約47億円、5.1%)、二位の九州大学(約31億円、6.1%)、
四位の大阪大学(約22億円、4.3%)が含まれ、前者には三位の東北大学(約
25億円、4.7%)、五位の京都大学(約21億円、3.4%)、六位の北海道大学
(約19億円、4.3 %)が含まれる。運営費交付金の減額グループでは、グルー
プ内の特別教育研究経費の総額の半分が上記三大学に占められており、かつこ
れらの三大学では特別教育研究経費の割合はいずれも平均である3.6%を大いに
上回っている。さらにこれらの三大学の特別教育研究経費の増額の総和は、全
大学法人の特別教育研究経費の増額の総和の113%となっている(増額グループ
の上記三大学についての同数値は12%)。これらの三大学は運営費交付金の減
額と特別教育研究経費の増額という点で共通しており、これら三大学を含んだ、
運営費交付金の減額と特別教育研究経費の増額とによって特徴付けられたグルー
プの運営費交付金に対する特別教育研究経費の割合は4.3%と大きな値となる。
一方、これらの予算の査定がともに減額されたグループのその割合は2.7%と、
運営費交付金の増額グループの同じ数値よりも小さくなっている。運営費交付
金の減額グループ内でのこの数字の開きは、運営費交付金の増額グループ内で
の同じ数値の間には格差がほとんどないことと比較して、顕著な大きさになっ
ている。運営費交付金の減額グループは増額グループと比較すると、特別教育
研究経費の一部の大学への偏在化と、グループ内の大半の大学にとっての運営
費交付金以上に特別教育研究経費が削減されるこれらの連動した減額とが特徴
となっている。

【主張】
 偽装などしても破綻は覆い隠せない。当面、行革推進法で強制的に人件費を
5%削減して帳尻を合わせようとするのであろうが、それは大学機能の崩壊に
直結しよう。国立大学法人法体制下の運営費交付金制度そのものの抜本的改革
が緊急の課題となっていることを今年度以上に明らかにしたのが、来年度予算
案である。

資料:「平成18年度国立大学法人予算の内示概要」ほか
http://www.shutoken-net.jp/2005/12/051221_2006kofukin.pdf