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『神戸新聞』2006年1月26日付

個性的なまちづくり、人材育成狙い 自治体と大学“協定ラッシュ”


 市町合併や人口減少社会への対応を迫られる自治体と、少子化に伴う“全入
時代”を迎える大学。ともに激しい環境の変化にさらされている両者が連携協
定を結び、個性的なまちづくりや、人材育成を目指す動きが急速に広がってい
る。兵庫県内でもこの二年間で十八組が誕生=表。“協定ラッシュ”に、それ
ぞれの思惑が見え隠れする。(北摂総局 藤井伸哉、社会部 宮本万里子)

全入対策、知識の活用…思惑一致 

 文部科学省によると、国立大学と自治体の共同研究は全国的に急増。二〇〇
一年度の百七十五件が〇四年度は二百八十三件に増えた。

 同省は「〇四年度の国立大学法人化で、各大学の裁量権が拡大し、運営に工
夫が求められるようになった。身近な地域でイメージアップを図り、学生確保
につなげる狙いだろう」と分析する。

■規模拡大目指し

 三田市と学校法人関西学院(西宮市)は〇五年二月、まちづくり、学術・研
究、産業振興など五項目の連携協定を結んだ。現在、バスの便数増加やルート
の検討、市の施設での公開講座開催やまちづくりの共同研究などを協議してい
る。

 働きかけたのは関学側からだった。三田市内にある関学大総合政策、理工学
部には学生や教職員ら約四千人が通うが、駅から約四キロ離れ、近くに商業施
設も少ない。三田キャンパスの六千人規模への拡大を目指す大学側は、利便性
向上に行政との連携が必要と判断した。

 一方、一九九六年まで十年連続で人口増加率全国一位を誇った同市も近年は
人口増が止まり、新たな地域振興策を模索する。

■合併しても

 一方、市町合併後の「存在感」を発揮するため、合併直前に協定を結んだ自
治体もある。旧朝来郡生野町(現朝来市)は、合併一週間前の〇五年三月下旬、
神戸大と歴史遺産を生かしたまちづくりの連携協定を結んだ。

 鉱山跡の調査や活用をテーマに合併の約四年前から、同大と協力してきた旧
町の担当者は「合併前に結んだことで、鉱山の町・生野の存在感を(新市の中
で)残せた」と説明。神戸大にとっても、合併後の組織改編などで、それまで
蓄積してきた協力関係が崩れるのを防ぐ利点があるという。

■手ごたえ

 連携協定が実を結び始めた例もある。

 神戸市灘区は、「二万人以上の学生が通う強みを生かしたい」と、区内にあ
る四大学・短大すべてと協定を結んだ。同区役所旧庁舎では、神戸大の学生ら
が子育て支援施設を地域住民らとともに運営。神戸海星女子学院大は、区が開
く「多胎児教室」に保育士を目指す学生らが参加する。「講義で学んでいても、
実際に子どもに接してみて初めて分かることが多い」と学生には好評だ。

 〇四年二月、県内で最初に、大学との協定を関西学院大と結んだ宝塚市。宝
塚ファミリーランドの閉園などで活気が薄れた市街地に昨秋、学生のアイデア
でオープンカフェや「足湯」を作り、にぎわいの再生を試みた。同市の担当者
は「若者の新鮮な発想や行動力は、街を変えるエネルギーになる」と期待。今
後、採算性などを検証し、市内の別の大学との連携も進めたいという。

<連携さらに広がる>

 産学官連携による地域振興を研究課題としている財団法人日本立地センター、
林聖子主任研究員の話

 “知の宝庫”である大学との連携は自治体側にとって、研究施設を生かした
企業誘致などの中長期的な経済効果も期待できる。大学側は研究成果を実証で
きる上、学生が就業体験できるメリットがある。連携はさらに広がるのではな
いか。